第13話「骸骨学舎」7

  「ぅウゥェエッ! ウォォェエッ」

俺達は校舎を一周してきたらしい。

嗚咽の響く、馴染みのある空間だ。


 「おい武部、そろそろ時間だぞ。 準備しろ」

いや、何か違う。


 「ぅェエッ!!! うっさいなぁ、あッ! 準備ならできてる‼」


 「いくら威力が上がるからってねぇ? そんなんで当たるかな? あぁ〜あ、今回もダメかなぁ」


 「今回は川部の作戦じゃん。 

"酔いどれ武部砲作戦" やる前からやる気なくなること言わないでよ」


 「あい、あ~い。すいませ〜ん。

ま、大丈夫しょ? 今回、助っ人は規格外っぽいし」

思ったより清楚ではなさそうな川部がこちらを振り向く。

艶めく黒髪がなびいて、試すような問いかけが飛んできた。


 「そうですよね? "救世主様"がた?」



 「つまりなんだ、あの痴態はフリだったのかね?」


 「そゆこと〜。

ヤバ目の存在だったら即、不意討ちって寸法。

ま、今回の作戦に必要だから武部はマジにぐでんぐでん何だけど」


 「ぉまぇぇなあ!」

会話から察するに、ちゃらんぽらんな川部立案の作戦により、武部はバケツを手放せなくなったらしい。


 「川部さあ…」

意外と澤部は常識人らしい。

さぞ普段から振り回されているのか、ため息をつく。


 「おら、そろそろ来んぞ。 お嬢ちゃんも、ほら」

堀部はやっぱり酔っても無骨な男だった。


眼前2メートル先小さなバケツの影が、不意にボコボコ泡立つ。


 「失敬、私は20歳だ」

 

 「うっそ〜」


 「川部、失礼じゃん!」

言い合いつつ、何がしかの祝詞が唇の端から絶えず洩れているあたり、やはり俺以外はその道のやり手なんだろうな、とぼんやり考える。

あぁ、そういえば。


 「俺、どうすれば良いですか?」

今更、自身の無能さに気づいた。


 「そこで座ってな」

厳粛な旋律の間に武部がげぇげぇシンプルな指示をだす。


修羅場に素人は立ち入るべきじゃないってのは、頭では分かっている。

でも、何だか口惜しく、とりあえず俺は傍らの消火器を手元に引き寄せた。

何か役に立てることがあるかもしれない…

くだらない意地の滲む、可能性に備えて。



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