第9話「骸骨学舎」3
塗装は剥がれ、ガラスは割れ、所々焼け焦げて…
いかにもな校舎の外周を恐る恐る一周した俺たちだったが不思議と霊には、でくわさなかった。
割れ放題意味深な情景を醸すガラス窓の向こうにさえ、なんら見当たらない。
実に廃墟らしい陰鬱な空気はバシバシ感じるんだが。
アイカ「おっかしぃ〜〜んじゃな〜いのぉ〜」
俺の脳裏を掠めた感想をオーバーな位に彼女は、夜空に吐き捨てるが如く乱雑さで代弁する。
当初、どんな強者が待ち構えているのかと対霊重装備…
もとい、
霊障無力化の甲冑やら、霊体攻撃可能な刃物やら、撒いた一帯を半永久的に除霊する聖水やら、霊から察知されなくなる面やらをガチャガチャいわせ、血湧き肉躍らせていた彼女ではあった。
が、あまりに何事もなさすぎるこの現状。
始めは喚き次に疲れ、
大枚はたいたらしい自慢の新装備を苛立たしげに車の荷台に戻したのが、つい先ほどのこと。
現在、彼女はいつもの某名探偵みたいな格好でダラダラと車体によりかかり、こうして愚痴ている次第なのだ。
アイカ「っていうかさ、もうこれって解決っていうことで良いんじゃないかな」
ついに投げ出す理由を探し始めたらしい。
俺「いやいや、まだ外! ぐるっと廻っただけじゃないですか! 中のまだ屋根が残ってるところとかに居るかもしれないですよ」
根拠のない俺の励ましに、彼女はグイッと何やら突きだして応じる。
アイカ「500メートル」
俺「はい?」
アイカ「対霊コンパス。 500メートル四方の霊的存在をもれなく感知する新兵器だよ」
手の平サイズ、ガラス容器に水の詰まっているそれが新兵器らしい。
中でチカチカ青い蛍光色が一粒、躍っている。
俺「いや、でもこれ、なんか光ってますよ?」
アイカ「甘いな〜、サムに反応しているだけなのだよ」
あぁ…なるほど。
アイカ「目視でダメ、コンパスにも反応無し。
もういないでしょ、何にも」
いつの間にかブルーシートを敷いて寝っ転がっていた。
ほっといたらそのまま眠りこけるんじゃないか。
アイカ「星が、綺麗だなぁ…」
すでに意識は空にのぼりはじめていた。
…こういう肩透かしを喰らって余裕ぶっこいた後、というのは大抵ろくなことにならない。
俺の経験則だ。
リーマンやってた時は幸い説教くらいで済んだが今回、結構ビッグなプロジェクトなんでしょう?
俺のリッチな生活の為にもここは、この小娘の尻を叩かなきゃいけない。
念には念を、石橋は叩いて渡らせろ。
一攫千金のチャンスを子供じみた移り気でむざむざ棒に振ってたまるか。
俺「まあまあまあ! 少〜しだけでも中に入ってみましょうよ! 案外、超常的な何かが飛び出して来るかもしれませんよ」
アイカ「あんなスカスカなのに?」
ボロボロのスカスカで、気密性なんてまるで無さそうな校舎を顎でしゃくる。
俺「そりゃ、そうなんですけど… あれですよ、あれ。 ここで切り上げるにしてもそれらしい理由付が必要じゃないですか」
まるで理解の及ばない事に関して、その道の専門家に意見するというのは、地雷原を進むようなものだ。
いかにあたりさわりなく自ら手の及ぶ範囲で説得するか、ちんちくりん相手にだって無駄に緊張する。
アイカ「ん〜、まぁね」
肯定的なニュアンスにのせて寝返りを打つ。
瞬間的にこれは良い反応なのだと、俺の対人遍歴が囁く。
気持ち呼吸が楽になった。
俺「でしょう? 取り敢えず中見てみません? 心霊でなくてもすこぶるヤバイ呪物とか、あるかもじゃないですか!」
アイカ「いや、それは絶対に無いよ。さすっち君」
むっくり上体を起こした彼女は若干機嫌が悪い。
アイカ「呪物というのは生み出された経緯はどうあれ本来、外部に対して無差別に攻撃的なものなんだ。 私の優秀なサムが無反応なわけないだろう!」
キッ!と親指を立てるといつの間にか、サムがその先で腕組みしている。
さっきまで主人と同じように軽トラの上で天を仰いでいた癖に、調子の良いやつである。
俺「ハハハ! それじゃあほら、最後の締めにちょっくら中を見にいきましょう!」
何か、自らの持てる才覚を十分に誇示しようと言わんばかりの勇ましい調子で立ち上がる彼女を見ていると若干、理由もなく胸が痛んだ。
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