第399話 つまりはきっとこれからも

「何かやっぱりずるいです、修兄は」

 香緒里ちゃんがそう言って頬を膨らます。


「いつの間にか修兄の話に巻き込まれてしまっています。最初はただ、修兄と2人で話す機会が増えたなあ、というだけの話だった筈なのに」


「まあそうだけどさ。香緒里ちゃんがこの学校に来てから色々あったなと思ったら、ついね」

「確かにそれは、そうですね」

 香緒里ちゃんも頷いてくれた。


「最初は飛行スクーターだったんですよね、作って貰ったの」

「でもあのスクーターの飛行原理は香緒里ちゃんの魔法だしさ」


「そして学生会に入って、キャンピングカーで空飛んでゲリラ的に露天風呂作って」

「まさかマンション買って常設の露天風呂を作る羽目になるとは思わなかったな」


「そして同じ構造の部屋をもう1つ買って完全に保養施設化するんですよね」

「何時でも顔なじみが一緒に集まれるようにさ。元々人嫌いだった俺の言う事じゃないよな」


「でもあの時、修兄は私の手を握ってくれたんですよね」


 どの時かは言わなくても俺にはわかる。

 香緒里ちゃんと由香里姉との初対面の時。

 あの公園でだ。


「あれから15年位かな」

「行ってみたら随分小さい公園だったですね。トンネルじゃなくて小さな防空壕の穴で」

「やっている事は変わらないかな。2人で何やかんや色々話して」

「ならきっと外で由香里姉が待っているんですね。そろそろ頃合いかななんて思いながら」


「やめてくれ、冗談にならない」

「大丈夫ですよ。今日は少し遅くなるって言っていましたから」

 香緒里ちゃんはそう言って笑う。


「まあそれでもこれからも宜しくな、香緒里ちゃん」

「ひとつ性格の悪い質問をしていいですか?」


 俺は頷く。


「何でもいいよ、今ならば」

「これからも宜しくって、どれくらいの期間ですか」


 ちと恥ずかしいけど、これは香緒里ちゃんに助け船を出してもらったんだな。

 なら思い切って言ってしまおう。


「俺が生きている間かな。好きだよ、香緒里ちゃん」


 ついに言ってしまった。

 いつか言おうとは思っていたのだけれど。


 ちょっとだけ沈黙。

 そして。


「ずっと待っていたんです、そう言ってくれるのを」


 後の台詞はどんどん早くなる。


「何回も告白したのにスルーされるし、修兄の周辺には女の子が増えまくるし、何回も何回も諦めようかとも思ったんですよ。それでも諦められないし、諦めようとするたびに修兄の事が好きだって事を再認識するばかりで……」


 最後の方は涙声。


「ごめんな遅くなって」

「でもちゃんと返事をくれたから、許してあげます」

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