第333話 Si vis pacem, para bellum(2) ~……戦への備えをせよ~
俺は、奈津希さんの部屋に飯をたかりに行った時の事を思い出した。
詩織ちゃんがその時言った言葉。
『奈津季先輩、だーい丈夫なのですよ』
『香緒里先輩も私もついているのですから』
やっとその言葉の意味が理解できたような気がする。
そう、だからこそ奈津希さんは最後に、
『詩織に無理させるなよ』
そう言ったのだ。
詩織ちゃんも奈津希さんも気づいていた。
俺だけが気付かなかった。
まあ理奈ちゃんは不明だけれども。
「ただもう修さんは進み始めました。引き返すことはもう無意味ですし、仮に修さんがこの先に進む事を放棄してもいずれ誰かが同じ道を拓く事になるのでしょう。
幸い修さんの環境はとんでもない位に恵まれてもいます。世界有数の魔法特区内で世界トップクラスの権威がごろごろいる。特区自体の安全性も極めて高い上、世界でも200人前後しかいないレベル6超級の魔法使い数人に図らずしも護衛されているような環境にある。
だから修さんがすべき事は、このまま前進し続ける事です。走り抜いて世界を変えていく事です。
でも香緒里さんや詩織さんの気持ちもちょっとわかってあげて下さい。2人共立場は違いますけれど自分達以上に修さんのことを大事に思っていますから。
さて」
風遊美さんはそこまで言って、一息ついてから一言声をかける。
「もういいですよ」
「ははははは、色々ばればれなのです」
詩織ちゃんが出現した。
木の棒材やら何やら色々持っている。
「やっぱり風遊美先輩は怖いのです」
「私もある程度空間魔法を使えますから。この杖を持った状態なら覗き見しているのもわかります」
どうやら詩織ちゃんは他の場所から空間魔法でここの様子を伺っていたらしい。
「まあそこまでばれては仕方ない、という事で修先輩にお願いなのです」
詩織ちゃんは棒材の他に大きいバックから色々物を取り出す。
魔法銀、ガラス板、魔石2個、増幅用人工水晶、水晶発振器等々……
これらの物には見覚えがある。
俺が工房に置いている杖作成材料一式だ。
「修先輩が一括修理魔法を覚えた事はうちの親父に聞いたのです。一括修理魔法が出来れば一括複製魔法も当然使えるはずなのです」
魔法杖の材料一式と複製魔法。
その意味する処は明白だ。
「つまり、この場でこのヘリテージ1号の複製を作れと」
「その通りなのです。私専用なので魔石はこの2個の仕様でいいのです」
魔石は特殊系1つと肉体強化1つ。
技術系の魔石を入れていないのは、これから作る杖を戦闘用と割り切っての事だろう。
確かに詩織ちゃんのメイン魔法は空間操作・制御だし、肉体強化も使えると聞いた事もある。
でも……
確かに詩織ちゃんの魔力では普段の仕様に杖は必要ないかもしれないけれど。
だから俺は自分のバックを漁る。
バックの奥に入れていたのは、学園祭以来使っていなかったアミュレット1号。
これは俺用の魔石入りだ。
そして先行試作品のこれは魔石交換可能。
つまり魔石は取り出せる。
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