第305話 ジェニーあなたは偉かった

 まずは実証用と比較用の杖の制作だ。

 比較用とは今までの理論を総動員したもの。

 要は奈津季さん用のボールペンを杖として再設計した代物だ。


 まずはこちらから取り掛かるべきだろう。

 内容も方針も見えているし、作成中に新たな気づきもあるはずだ。


 なお、このマンションに本日滞在しているのは俺の他に3人。

 風遊美さん、奈津季さん、詩織ちゃんの3人だ。

 この3人は帰省しない組。

 俺のいない間は3人で適当にこの部屋で過ごしていたらしい。


 ちなみに今年の授業は7日スタート。

 ほとんどの面子は5日午後の飛行機で戻ってくる予定だ。

 そして。


「そろそろ皆が帰って来た時の御馳走の調達をしようぜ」


 と奈津季さんが夕食時提案。

 要は明日釣りに行こうぜ、というお誘いだ。


「いいですね。そろそろ冷凍食品以外も食べたいですし」

「一発、大きいのを狙うですよ」


 と2人とも乗り気。


「でも、今回は魚群探知機はいませんよ」

「代わりに潜水艇があるじゃないか」


 お、そう来たか。


「でも冬の海なんて寒いですよ」

「ここは南国だぜ。冬だって海水温は20度ある」


 それって潜るには結構冷たい気が……


「それに水中と水上では電波は通じにくいですよ。長波帯のトランシーバなんて代物は無いですし」

「そうか。なら残念だが下手な鉄砲方式で行くか。


 つまりレーダー無しか。


「数撃ちゃ当たるですよ、きっと」


 景気いい事を詩織ちゃんは言うけれど……


 ◇◇◇

 

「釣れねえ」


 ジェニーの有り難みを俺達は思い切り認識する事になった。


 開始から2時間。いつもと場所はほぼ同じ。

 使っている仕掛けも下ろしている深さもほぼ同じ。


 でも、釣れない。悲しいくらいに竿が動かない。

 竿も1本増え4人共に構えているのに全然釣れない。


「諦めて小さい仕掛けで小物を狙いましょうか」

「でも14人の大所帯だろ。小さいのだと圧倒的に量が足りない」


 14人で、かつ皆よく食べるしな。


「ならしょうが無いです。そろそろ必殺技を出すのです」


 詩織ちゃんがそう言ってリールを巻き始める。

 完全にリールを巻いて、自分の仕掛けも全て片付けてしまった。


 その代わりに取り出したのは、見覚えあるアイテム2つ。

 例の詩織ちゃん改造済みアミュレットと招き猫型最強杖試作品だ。

 学園祭で田奈先生オヤジがやっていたのと同じように両手で2つの魔道具を握って、一気に魔力を増大させる。


「おいおいこれって」


 それほど魔力感知が得意でない俺でもわかる位凶悪な魔力だ。

 風遊美さんがさささっと自分の釣り道具を片付ける。

 俺や奈津希さんもそれに倣うことにする。


 そして。


 ドン、という大きな音とともに船が一瞬揺れる。

 現れたのは巨大な魚。豪快に跳ねている。

 奈津季さんが冷却魔法で強引にとどめを刺し、船倉に巨体を押し込む。


「毒は無いですね」

「カンパチだね」

「重さ12キロです」


 と俺を含む3人。

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