第306話 厨房の後継者

「ふっふっふっ。今回は片っ端から空間繋げて海中をスキャンしたですよ。128箇所目で群れを発見して一番大きそうなのを頂いたです」


 どうも去年の初夏に詩織ちゃんが魚を捕まえた時の魔法の応用版らしい。

 ただあの時に比べれば随分と短時間で済んでいる。


「魔力の方は大丈夫なのか」


 あの時の詩織ちゃんはほぼ魔力切れ状態で、俺のベッドを占拠してさっさと寝てしまったのだが。


「今回はチートグッズを使ったので余裕なのですよ。方法も待ちではなくて広範囲複数箇所同時進行でやったので時間短縮も出来たのです」


「……風遊美、解説頼む」

「私の常識外です」


 まあそういう魔法もあるんだな、という事位しか俺達には理解できない。


「これだけ大きければおかずには充分だろう。帰るぞ」


 詩織ちゃん以外、つまり俺を含む3人には微妙に納得のいかない結末だ。

 でもまあ獲物が手に入った事を喜ぶとしよう。

 直接屋上に乗り付けて俺の魔法で窓の鍵を開け、重くて大きい獲物を運び込む。


「さて、素材は最高だから今回は思い切り色々作るぞ!」


 という事で例によって奈津希さんは風呂場で解体作業を開始。


「それにしても奈津季さんがいなくなると大変ですよね。料理とか今回のような魚を捌くのとか」

「小さいのは私でも出来ますが、流石に大きいのは自信ないです」


 風遊美さんも駄目か。

 当然俺も出来る気はしない。


「ああ、魚の解体はルイスに伝授済みだ。だから大きいのを釣ったらあいつに任せておけ。ただ味付けとか調理部分は絶対ルイスにさせるなよ。あいつの舌は英国仕込みだ」


 舌が英国仕込みとはどういう意味だろう。


「わかりました。捌くのはお願いしてそれ以降は私か他の人がやる事にします」


 今の言葉、EUの魔法特区出身の風遊美さんには通じたらしい。

 返事から察するにどうもあまりいい意味では無いようだ。


「何なら私も調理するですよ」

「詩織と修も調理させるなよ。魔法工学科だけあって妙に機械的な料理になる傾向がある。食べて消化できれば食事だという感覚だからな。

 今の面子だと風遊美を除いたら一番有望なのは香緒里だな。ジェニーとソフィーは神の教えとかで麺類以外は作らないし。後は愛希かな。理奈はどうも味より趣味とかネタに凝るタイプと見た。

 月見野先輩あかりさんは多分一通り作れるけれどお茶菓子以外は作らないと自ら公言している。ロビーと鈴懸台先輩みどりさんは焼けば何でも食えると信じているし、由香里さんは尊敬すべき先輩だけど口に入るものだけは任せられない」


 風遊美さんが笑いを堪えている。

 俺に対する評価は別として、まあ半分以上は納得できる評価だ。


「私も作れるですよ」


 詩織ちゃんは少し不満そうだ。


「例えば詩織や修が味噌汁を作ったとする。すると恐らく味噌やや薄め、油揚げとわかめ等具が2品入った出汁無しの味噌汁になるんだ。確かに見かけも材料も栄養価も味噌汁なんだが飲むと何かどこか物足らない。どうだ覚えはないか」


 あ、言われてみれば、確かに……。

 風遊美さんはついに笑いを堪えられなくなった。

 口を押さえて肩をひくひくさせている。


「そういう時は最初から出汁入り味噌を使うのです」


「とまあ、こんな感じなわけだ」


 我ながら否定できないのが悲しい。

 ちなみに風遊美さんはついに机に突っ伏した。

 いくら何でも笑いすぎだろ、風遊美さん。

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