第170話 公開下準備

 俺が大体冷蔵庫の外形を作り終わった頃。

 工房前では巨大魚解体イベントが始まった。

 俺以外の学生会幹部の他、野次馬らしき学生も4~5人来ている。

 ジェニーがSNSか何かで広報したのだろうか。


 まず奈津希さんが取り出したのは銀色のロウニンアジ。

 水で流しながら細かい鱗を取り、あれよあれよといううちに腹開きの状態にして風遊美さんに渡す。

 風遊美さんが水をかけながら魔法で血を抜いている間に、更に奈津希さんはもう1匹処理。

 処理後のアジをルイス君が漬け汁に入れて、巨大アジの干物の第一段階終了。

 俺が何とか冷蔵庫の棚を作り終わり、扉も付けたあたりで今度はカンパチを出す。


「香緒里ちゃん、そろそろ魔法付与お願い。奈津希さん、冷蔵庫の温度は何度くらいがいいですか」

「0度からマイナス2度の間。あと中の魚が酸化するといまいちだから酸素抜きで。あと湿度高めで」


 という事なので、香緒里ちゃんに

 ○ 内部全体にマイナス1度になるような付与魔法

 ○ 冷蔵庫上部の吸気口に窒素だけをフィルタして吸い込む付与魔法と、更に吸入した後の窒素がマイナス1度になるような付与魔法 

をかけてもらう。

 常に外から冷やした空気を流入させれば中の湿度はそう下がることはないだろう。

 香緒里ちゃんの付与魔法は全くもって便利だ。


「修、そろそろ冷蔵庫いいか」

「今完成しました」

 底につけたキャスターでごろごろ倉庫の入口付近壁際へ置く。


「内部は窒素充填しています。閉じ込められたら酸欠で死ぬから注意して下さい」

「おいよ。後で鍵も作っておいてくれ」

 そう言う側からルイス君が巨大アジの開いた奴をそのまま冷蔵庫に持ってくる。


「このアジは開きのまま冷蔵庫入りですか」

「それは当日巨大アジフライにする予定だ。だからそのまま崩さず冷蔵庫に頼む」


 普通のアジフライ何匹分になるのだろう。

 ざっと見たところ長さ幅厚さそれぞれ5倍程度だから、5の3乗で125匹分か。

 もっと大きい気もするが。


 奈津希さんと風遊美さんの2人体勢で魚を捌き血をぬいて、ルイス君が冷蔵庫と作業台と船庫を行ったり来たりして運んでいる。


 ただ見ているのも申し訳ない。

 だから俺は当日必要になるだろう皿を適当なステンレス板で作ることにした。

 ステンレス板をストックから取ってくると、何か叩く音が響きだした。

 見ると詩織ちゃんが香緒里ちゃんが使った鋼材類を使って包丁を作っている。

 どうやら見ると刺身切り用の柳刃包丁のようだ。

 気が利くなと一瞬思ったが、実のところは香緒里ちゃんがやって見せた包丁の作り方を自分でも実践してやってみたかっただけだろう。


「包丁作りはどうだ、楽しいか」

「楽しいです。包丁の次は天下五剣レプリカなんてのもいいのです」

 それは確かに楽しそうだ。


 そしてパソコンやスマホで広報作業をしているジェニー・ソフィー組の働きのおかげか見物人は少しずつ着実に増えていく。

 魚を捌くところだけでなく、詩織ちゃんの包丁作りまで見物人が出ている。


 そんな感じで魚を全て下拵えした後。

 約2時間半漬けた漬け汁の中の巨大アジ2枚を取り出し、流水で汁を完全に洗い流してから詩織ちゃんの例の乾燥庫へ入れ、低温乾燥モードにする。


 この頃には野次馬というか見物人が計30人まで増えていた。

 この短い時間に随分集まったものだ。

 この島が狭すぎて娯楽が少ないせいもあるだろうけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る