第60話 小話3の7 僕らのメルヘン
俺と由香里姉はベッドに並んで寝ている。
いつもなら本能を抑えるので大変な状況だが、今日は何故かそれを感じない。
風呂と外とを行き来して疲れたせいもある。
でも由香里姉の雰囲気がいつもと違う感じなのが一番の理由だ。
俺と由香里姉は互いの手を握っている。
『倉庫で風の通りが悪いから少し暑いかな。ちょっと冷気を通すよ』
そう伝わってくると同時にすこし涼しくなった。
ちょうどいい感じだ。
『あのトンネル内でもこうやって涼んだな。3人でお昼寝して』
『それで3人で同期したまま同じ夢のなかで遊んだりね』
由香里姉は結構あの頃のことを憶えているらしい。
『私も香緒里も3歳位の時からかな、この手を繋いで会話出来る魔法が使えて。
でも母にはこの魔法は使うなって言われた。
幼稚園ではこの魔法が気味悪がられて一人ぼっちだったし。
香緒里が言葉を憶えた頃には母がこの魔法を使うとヒステリックに怒鳴るようになっちゃったし、結局2人だけでいることが多かったかな。修に会うまでは』
『初めて会った時のことは憶えている。むしゃくしゃして走り回ったらいつの間にか知らない場所にいたんだ。
途方に暮れて心細くなった時。白いサマードレスを着た女の子2人に出会った。
2人ともよく似ていて凄く可愛くて。
女の子2人、ちょっと年長の女の子が俺より小さな女の子の手を引いている姿がすごく幻想的で。夢の世界に入り込んでしまったのかと思ったんだ』
『ふふ、ありがとう』
しまった、思ったことがだだ漏れだったらしい。
『でもあの出会いは私達も衝撃的だったのよ。対人恐怖症気味だった香緒里が、左手で私の右手を掴んだまま、何故か自分から右手を握手するように差し出して。
それを修くんに握り返してもらって。『こんにちは』と伝えて修君が少しどもりながらも『お、おう。こんにちは』と逃げないでちゃんとお返事してくれて。
あの時まできっと私達2人だけだった世界に、初めて友達が出来たの』
それからはかなり長いこと、一緒だった気がする。
学校が終わると俺が2人の家に行くか2人が俺の家に迎えに来て。
そしてあの公園のトンネルで3人で手を繋いでお昼寝して。
『冬は結構寒かったわね。3人でぎゅっとくっつきあって』
『夏と違って由香里姉の魔法が効かないからな。トンネルの中にダンボール持ち込んでその中入ってたり』
『そうそう、トンネルの中にダンボール、結構溜めたよね』
凄く懐かしい。
あの頃の俺にとっても2人は特別な存在だったから。
人と会話するのが苦手だったので俺はクラスメイトとも他の近所の子らとも殆ど交流がなかった。
その癖成績だけは良かったから妙な優越感だけは持っていて、その事が余計に他の人間と俺とを更に遠ざけた。
結果、プラモや電子工作をしたり本を読んだり一人でいる事が多かったのだ。
2人といる時以外は。
『あの頃と比べて私は少しは変わったかな。修は変わったかなと思ったけれど、こうして毎日会うようになるとやっぱり修は修だなって思う』
『由香里姉はこっちといつもとが違いすぎ』
『しょうがないじゃない。香緒里は前に修がいるけど、私は前に誰もいないんだから。邪魔者をバッサバッサやるうちにあっちが地になっちゃった』
『困った事にそれも似合っているけどな』
『外敵を排除しつつ似合うように鎧を作ってこうなっちゃったのよ。まあ誰も生まれたままではいられないから当然なんだろうけどね。でもね』
そう言って由香里姉は、ベッドの中の身体をこっちに向ける。
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