第4章 嵐と実りの季節です

第45話 導入話1 学生会もお仕事します

 9月終わりの金曜日。

 4年生はまだ授業は始まっていないが、学生会幹部3人は学生会室に揃っていた。


 3限終了後の俺が学生会室の扉をくぐって真っ先に目に入ったのは。

 書類の山とうんざりした顔でそれを確認している深淵の監査担当。

 由香里姉の席にも鈴懸台先輩の席にもそれぞれ書類が束になっている。

 でも月見野先輩の前の書類はそれらより圧倒的に多い。


「何ですか。この仕事しているっぽい書類の山は」

「学園祭の申請書類よ。今日から申請開始なの」


 そうだった。

 この学校でと言うか、この島の一大イベントが迫っている。


 元々魔法技術関連しかないこの島。

 普段は訪れるのも関係者ばかりだ。


 でも学園祭のある週は違う。

 うちの高専も隣の大学も同時に学園祭を実施。

 この時ばかりは島中がお祭りムードに包まれる。

 普段出入りが制限されているこの島も、この時だけは事前の申込みがあれば一般人が訪れることが出来るのだ。


 当然、訪れる人は多い。

 通常5千人に満たない程度の島の人口が、この週だけは十万人規模になる。


 その為に処理すべき事務事項も多い。

 例えば学内のイベントの認可・許可関連とか場所やスケジュール調整。

 物品購入等の予算執行関連や公式パンフレットの作成等。

 学生会絡みだけでもとんでもない仕事量がある。 


 もちろん幹部会が全部をやるわけではない。

 傘下のいくつかの分科会が実務を行う。

 しかし認可・許可関連は最終的には必ず幹部会に決裁として上がってくる。

 また場所や時間の調整で係争があって双方が引かない場合。

 その裁定も幹部会に回ってくる。

 結果、学生会幹部の仕事量も一気に増えるのだ。


 そしてその中でも。

 最終的な審査を実質的に行っている月見野先輩の負担が最も大きい。


「そう言えば長津田君、審査系の魔法持っていらっしゃいますよね」

 月見野先輩がそう言って俺をすがるような目で見る。


「会計系は無理ですよ。物品の性能や性質しか見えませんから」

「それで十分ですわ」

 そう言って月見野先輩が立ち上がり、俺の机の前にドスン、と書類の束を置く。


「申請書のうち、魔法を使うものと新たな制作物を使うものですわ。これの安全性を確認していただけるかしら」

 まあそれなら一応俺の守備範囲だ。

 それに月見野先輩の負担も少しは軽くなるだろうし。


「わかりました。それで安全性の基準はどれくらいを目安にしますか」

「そうですね。認識ある過失までは許されて、未必の故意は不許可にする……というのはわかりにくいですかしら」

「お客様は怪我をしないように、主催側は注意すれば事故や怪我を防げる程度でいいわ」

 由香里姉が分かりやすい基準に直してくれた。


「わかりました。由香里姉の基準で見てみます」


「お願いしますわ。私は他に予算関連もありますので」

 月見野先輩はほっとしたような顔をして。

 まだまだ積み重なっている書類の山に戻っていった。

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