第29章 小話3の4 急いで権利を押さえよう

 俺は考える。


 弾性係数が変わるという事は。

 応用出来る力学的な道具とすれば、バネが使える。

 ならこれは、色々使える可能性がありそうだ。


 俺は久しぶりに製品審査の魔法を全力で使う。

 疲れるとかそういう事を言っていられる状況じゃない。


 案の定この物質は面白い性質を持つし、応用範囲も凄く広そうだ。


「香緒里ちゃん、これは面白い事になりそうだ」

 俺はそう言うと、ストック場所から鋼線を選んで取り出し、久々に物品加工魔法を使った。


 伸びた鋼線がくるくる空中で螺旋を描き、切り離されて太細2本のバネになる。

 細いバネの方が太いバネより長い。

 細いバネにはその辺にあった熱収縮チューブを全体にかぶせて絶縁する。

 

 細いバネを太いバネの中に入れる。

 その辺にあった鋼板を円形に加工。

 細いバネを縮めた後円形の鋼板を太いバネの両端に貼り付ける。

 最後に導線2本を両側の鋼板に固着させて完成だ。


 そして俺は棚から鉄道模型用のコントローラーを取り出す。

 無論鉄道模型用として使っているのではなく、12ボルトまでの任意の電圧の直流を作るのに便利だから使っているだけだ。

 コントローラーと導線と適当な抵抗を接続して理論実証用の装置が完成。


「これは何なんですか」

「香緒里ちゃんが作った魔法の理論実証用の模型。この外側のバネだけにさっきの魔法をかけてくれる?」


 本当はしまったなと思っている。

 魔法をかけてからバネを作れば多分楽だったのに。

 ついつい気持ちが先走って模型作りを先行させてしまったのだ。

 でも幸い、香緒里ちゃんはこの状態でも魔法をかけることが出来るようだ。


「外側のバネだけですね。ならこれで完成です」

「じゃあ実験、見てなよ」


 俺はコントローラーの電源を入れ、まずはつまみを少しだけひねって電流を流す。

 思ったより大きな変化があった。

 バネを組み合わせた装置はぐぐっと3割位長くなる。


「電流を流すとバネが柔らかくなるようだな。だから内側のバネの弾力に負けて伸びた」


「これなら義足の動力に使えますか」

 香緒里ちゃんはきらきら目で聞いてくる。

 でも彼女はこの実証装置が持つ可能性に気づいていない。

 これは義足に使えるとかそんなものじゃないのだ。


「気合い入れて行くぞ。これから田奈先生の研究室へ行く」

 俺は立ち上がる。


「え、いきなり何でですか」

「田奈教授は魔法工学科の主任教授だ。魔法道具関係のパテント取得窓口もやっている」

 奴に話すのが一番早い。

 何せ誰より魔法工学を良く知っている。


「パテントって、この魔法がですか」

「ああ、これは色々応用が効くしな」

 俺達は実証装置を持って研究室を目指す。

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