第9話 負担も費用も山分けだ

 背後でおおーっ!と歓声があがる。


 単なる買い上げは年に数回ある。

 でも複数買上げは滅多にない。

 まあ今回のは製作に香緒里ちゃんの魔法が必要。

 だから設計図のみという訳にもいかなかったのだろうけれど。

 

 値段もなかなかに悪くない。

 ただ正直あと4台作るのはちょっときつい。

 同じものを繰り返し作るのは苦手なのだ。

 創造性が無い行為だから。

 それに。


「あれは薊野さんの作品ですから、薊野さんに聞いてください」


 あれは香緒里の作品として提出したものだ。

 決定権があるのは俺じゃない。


「薊野の意見はどうだ」

「確かに魔法だけは私がかけたのですが、実際に作ったのはほとんど長津田先輩です。だから長津田先輩の意見を優先してください」


 あ、投げ返されてしまった。

 ならどうしようか。

 同じものを4台も作るのは正直面倒だし。

 そう思ったところで妙案がひらめいた。


「なら提出物は薊野さんと俺とで半々で。これから作る4台については2割を原案作成者の薊野さんに渡してください。残り8割は製作者で分けます。俺と薊野さんだけであと4台作るのはきついので」

 つまり量産分はここの面子に振ろうという案だ。


 正直同じものを何台も作るのは俺が面倒だというだけの提案。

 でも創造製作研の先輩方にとっても悪い話ではないだろう。

 今いる常連1人あたり20万円の分前になる。

 それにここにいる面子の工作の腕は信用出来る。


「いいのか、それで」

 田奈先生の目が俺と、奥にいるこの部の部長である江田先輩を見る。


「俺達はいいけど、いいのか長津田と薊野」

「私は長津田先輩が決めたことなら」

「同じものを何個も作るのは得意じゃないので」


 田奈先生は頷く。

「分かった。ならそれで決定だ。材料は次の船で揃えるから再来週の水曜日頃、納期は材料が来てから1月だがいいか」


「大丈夫です」

 今度は江田部長が答えてくれる。


「なら、明日にでも学校長印入りの契約書を持ってくる。頼んだぞ」

 そう言って田奈先生は部屋の入口へ。

 そして出る直前、俺の方を見る。


「長津田」

「何でしょうか?」

「あまり私達を笑わせるな。今回の教授会も『またあいつの仕業でしょう』と全教授一致で納得しつつ爆笑させてもらったぞ。会計長だけは渋い顔だったがな。じゃあまた」

 今度こそ田奈先生は出ていった。


 そして改めて起き上がる歓声。

「さて、この工作に手をだす人間は挙手!」

 江田部長の言葉に全員が手を挙げる。


「やったぜ、20万円ゲット!」

「神様仏様薊野香緒里様。恵まれない我々にお慈悲をありがとうございます」


 変な騒ぎの中、俺は例の空飛ぶスクータの設計図を人数分コピーする。

 江田部長を始めとして今いる6人と香緒里ちゃんにそのコピーを渡す。


「という訳で設計図です。実際の作業は再来週以降になりますが、割り振りは部長お願いします」

「ああ、それは良いが、本当に今の取り分で良かったのか。長津田の取り分が少なすぎるだろう」

「前のヘリコプターのパテント代が少しずつ入りますしね、俺は」


 あのヘリコプターは外部の企業にいい値で売れた。

 しかも生産する度にそこそこのお金が俺の懐にも入る。

 だから俺は小遣いにはあまり困っていない。

 たまに変なものを作って材料費に困る位で。


 取り敢えず提出用の飛行スクーターに使ってしまったアルデュイーノ4台。

 あと各種センサー類は個人的に補充しないとな。

 そう思いつつ。

 背後でまだ馬鹿騒ぎは続きつつ午後はふける。


 2週間後、どっさりと荷物が届いた。

 その後の2週間の午後は香緒里ちゃん含む創造製作研究会総掛かりで飛行スクーターを製造。

 何とか納品して魔法による性能や耐久性チェックも通過した暫く後。


 我が校教師陣らによる空中暴走事案で自衛隊と警察から苦情が入った。

 そんな話を噂で聞いた。

 でも俺には勿論関係ない。

 その辺は製作者の責任の範囲外だ。

 そうだろ?

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