第2章 学生会長の野望(7年ぶり回数不明)

第10話 女王様の召喚状

 それは、いつもと同じ放課後から始まった。


 いつもの第1工作室。

 俺は小さい機械相手にはんだゴテを奮っていた。

 今日は電子工作だ。


 改造母体は中国製安物デジタルアンプ。

 安くてその割に音がいい。

 でも安値追求のためか部品面で惜しい箇所が結構ある。

 例えばオペアンプのICとかコンデンサとか、まあ色々。


 そういう訳で部品をそれなりのものと交換。

 ちまちま小さい基盤相手に格闘していたら、4限終了のチャイムが鳴った。

 数分後いつものように前の扉が開き、香緒里ちゃんが入ってくる。

 だがそこからがいつもと少し違った。


「長津田先輩、ちょっとお出かけ出来ませんか?」

 何だろう。


「これ終わってからじゃ駄目か」

「出来ればちょっと急ぎたいです」


 何だか想像がつかない。

 こういうのは初めてだ。

 しょうがない。

 俺はやりかけのはんだ付けを一旦終了し、スイッチを切る。


 第1工作室がある実務教室棟から教室棟へ。

 教室棟の一番東寄りの階段を上に登った時点で。

 僕は香緒里ちゃんの目的地に気がついた。

 この上階段脇にある学生会室だ。


 学生会は高校等の生徒会と違い権限がかなり大きい。

 何せ部活や研究会等の予算の決定権を握っている。

 装備や備品や部品の購入を決めたりもする。

 この学校の学生側官僚組織ビューロクラシーのトップなのだ。


 でも香緒里ちゃんがわざわざここへ連れてくるとなると。

 そんな学生会の権限とは意味がきっと異なる。

 香緒里ちゃんと学生会の接点は多分1人。

 そして香緒里ちゃんは学生会室のドアをノックした。


「香緒里です、入ります」

 返事を聞かずにドアを開けて俺を引っ張り込む。


 中で待っていたのは女の先輩3人と。

 中央の席で俺がこの学校を受験した原因がこっちを睨んでいた。


「待っていたわよ。修」

 香緒里ちゃんの姉にして攻撃魔法科4年。

 別名氷の女王こと、薊野由香里だ。


「ええと学生会長、何か御用でしょうか」

「ふざけないでよ!」


 寒波が飛んできた。

 氷混じりでないので怪我はしない。


「この学校入ってからずっと待っているのに、来てくれたのはこの杖を作った時と調整してもらった時だけじゃない。せっかくいつでもお茶出来る程度の準備して待っているのに」


 って、他に人がいる場所でそんなぶっちゃけを言って良いのだろうが。


「ん、あの長津田君が会長の幼馴染って聞いてさ、いつここへ来るか楽しみにしていたんだ。でも結局自発的に来てくれないまま今日になった訳だ」

「私達のことはお気にしなくても結構です。会長から色々お伺いしておりますので」


 この2人の女の先輩達も俺は知っている。

 副会長の鈴懸台先輩と書記兼会計兼監査の月見野先輩。

 どっちも一応俺のお客様だ。


 昨年の夏休み前、この3人が別々にだが俺に専用武器を発注してくれた。

 始めは由香里姉、次いで鈴懸台先輩、そして月見野先輩。

 3人共当時としてはなかなかに難しい注文をしてくれたのだ。

 でもお陰で魔法武器の制作に必要な一通りのノウハウが身についた。


 それぞれ杖、剣、仕込み入り杖と全く違う道具。

 俺が作った初めての魔法杖、魔法剣、そして医療用の杖だ。

 そして未だに魔道具としてはトップクラスの出来。

 注文が明確で分かりやすかったおかげも大きいけれど。


「去年作った武器の調子はどうですか。何ならメンテナンスしますけれど」


「残念だが私のクラウ・ソラスは全くもって絶好調だな」

「私のカドゥケウスもです。あれは良く出来た杖ですから」

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