1.

 荒廃したビル群、その間を『Mayday』と縫うように進んでいる。


 Maydayによると、ここは昔『トウキョウ』と呼ばれて場所らしい。かなりの都会だったらしく、入り組んでいて正直面倒な場所。


 本当はもっと見晴らしの良い草原で、にバンバン撃つ方が私は好きなのだけれど。


「Mayday、索敵スキャンしてる?」


「勿論デス、オ嬢。」


 Maydayはいつも通りの機械的な声で返事する。


 今回の標的ターゲットはかなりの大人数と聞いている。いつどこそこのビルから狙撃されたらたまったものじゃない。


 でも、Maydayの索敵スキャンの優秀さと言ったらない。そのスピードから標的ターゲットの位置の正確さといい、まさに一級品かそれ以上。 敵が射程圏に入ったとき、こちらもまた敵の射程に入っているのだ、なんて格言を聞いたことがあるけれど、それさえもスピードと正確さで覆すほどだ。


 ふと、マップを見てみると、更新に合わせるように進んでいるはずなのだがどうも更新が追いついていないらしい。「ちっ」と舌打ちをひとつして、都合の良さそうな瓦礫の影に潜んで更新を待つことにした。


 いざとなれば、索敵スキャンで無理矢理進むのも悪くはないだろう。


「この件については『あいつら』に一言いっておかなきゃね・・・」


 と、愚痴を漏らそうとした瞬間、Maydayの索敵スキャンが反応した。


「オ嬢!SEサウスイースト140°、ビルノ屋上、1人!」


「先に撃たせてMayday!援護と連れがいないか索敵もよろしく!」


 息を止め、即座にARアサルトライフルのスコープを覗き込む。視界は良好。索敵スキャンの性能も相まって、敵の姿は一瞬でスコープの中に収まった。


「見えたっ。」



 どんっ、どんっ。



 ヘッドショット。ぶち込んでやった。


「Mayday!他は!」


 体が昂ぶってきているのが分かる。そう、これが私の仕事だ。


「同ジクSEサウスイースト110°のビルデス!」


 熱くなって来た身体と銃身バレルを少しずらして、また撃ち込む。



 ばばんっ。ばんっ。



 命中。腹部に5、6発。


 相手が血飛沫を上げて吹っ飛んでいくのが遠目に見える。多分さっきの伏兵とのグルだろう。


「オ嬢、囲マレテイマス。デスガ、敵ハ幸イ私タチノ位置ヲ把握シテイマセン。ココハ退避スルノガ得策カト。」


 私が撃っている間に、Maydayも何人か仕留めたみたい。


「突破口を開いて進行ダッシュする。Mayday、目眩しスモーク焚ける?なんなら手榴弾グレネードでもいいから。」


伏兵がいるなら、きっと奥に護りたいがあるのだろう。ならば進むしかない。


「オ嬢、コレ以上ノ進行ハ危険デス。マップノ更新ガ追イ付イテイマセン。」


 そのぐらい知っている。それなら索敵スキャンすればどうとでもなるだろう。それに、もう一度この地に降り立つのも気が進まない。二度手間は嫌いだ。


「オ嬢、止マッテクダサイ。コレ以上ハ危険デス。不確定要素ヲ伴イマス。」


だ。」

と子供のように断言して、私は進みだそうとする。


「力尽クデモ行カセマセン、オ嬢。危険デスカラ。」

 はぁ、とひとつため息をつき、私は振り返る。前から思っていたが、AIと人間の主従関係が逆転することがしばしばある。確かに、今の時代、力でいえばAIの方が上かもしれないが。


特にMaydayウチの子ならなおさら。


「Mayday、安全な場所にヘリお迎えを呼んで。はやく、私もう疲れたから。」


「オ嬢、ソレガ、ソノ。モウヘリハ全テ出払ッテシマッテイルトノコトデ・・・。恐ラクアト2時間ハ待ツコトニナルカト。」

ちょっと待て、それはおかしい。


「『あいつら』、私達をこんな土地に放り込んでおいて、ほんっとに馬鹿。」

これでもう一つ文句が増えた。帰ったらこっぴどく言いつけてやろう。


そう思いながら、私は煙草に火をつけ、安全地帯へと駆けていった。





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