第3話 不健全な高校生
課題を僕たちに与えた
部室に残された僕と
「さて、どうしよっか?」
どうやら先ほどのことはなかったことにするらしい。なしならなしで僕も助かるので、乗っかる形で話し合いに参加する。
「部員の確保は後回しにして、活動内容を決めよう。部活を創りたかったのは奥寺さんなんだから、何かしらやりたいことがあるんじゃない?」
「投げやりだと思うけど……まぁ一応は決めてあるよ」
「お、それじゃーー」
「……」
「お、奥寺さん?」
「言いにくいことなんだけどね……」
言いにくい?よからぬ想像をしてしまったが、僕も高校生といういいお年頃。仕方ないのだ。何を想像したかはお任せするが……。
それより奥寺さんは発言だけならまだしも、顔を赤らめるのは流石に変な方へ頭が回ってしまう。雑念を取り払い健全な高校生として奥寺さんの答えを聞く。
「え、えっと……この部活でやりたかったことを言う前にね。実は、私ーー」
ダメだ。健全な高校生は僕の中にもう居ない。不健全な高校生しか存在しない。
現実の奥寺さんが絶対言わないような言葉を脳内に居る奥寺さんは言っている。
「私ーー根っからの変態なの。
「私ーー高校生なのにいけないことしてるんだ。例えばね、私のカ・ラ・ダ使ったりしてね……」
ヤバい。清楚な奥寺さんが僕の中からどんどん消えて行く。このままでは……。
清楚な奥寺さんが逃げないようフィルターを張ったが、それでも小さな隙間を通って逃げて行く。しかも本物の奥寺さんが何かをカミングアウトし出した。
清楚な答えでありますように、と願うのは意味不明だが思わず目を瞑る。
「私ーー根っからの……」
途中で言葉が出て来なかったので、思わず瞑っていた目を開けると奥寺さんが僕を見ていないことに気付いた。
何を見ているのか、奥寺さんと同じ目線の先を見るとそこにはホコリの被った壁掛けの時計があった。時計がどうかしたのか聞こうとする前に……。
「ゴメン! 太刀花くん、また明日! 鍵はよろしーー」
最後の言葉は扉の勢い良く閉まる音に掻き消されてしまい、中途半端な言葉だけが僕の耳に残る。そして、部室に一人取り残されてしまった。
奥寺さんから任された仕事は途切れた言葉でも十分に把握出来たが、いきなり帰る理由を説明されずに帰られるのは少しだが傷付くものはあるものだ。
奥寺さんが気にしていた時計で、時間を確認すればもうすぐで五時だった。
「五時か……もしかしたら塾か何かかなぁ?」
プライベートを詮索するのは良くないな、と紳士を気取って詮索の思考を止める。
話相手も居なくなってしまったので、部室に居る必要はない理由から奥寺さんから頼まれた仕事の戸締りを行う。窓際にあった水入りバケツも片し、椅子を綺麗に整えてから部室の鍵を持って……
「ない。どこ? 部室の鍵!」
あちこち探し回った結果、奥寺さんが荷物を乗せていた机の横にぶら下がっていたのを発見し、荷物を持って部室の扉の鍵を閉じる。
改めて即席感の塊である貼り紙を見て、鍵を職員室へと戻しに行った。
やはり思うが、職員室には多少の抵抗感が込み上げてくる。鍵を返すだけなのだが僕にとっては少しハードルが高い。
「はぁ……」
あまりにも高い壁を前にため息を一つ。勇気を振り絞り職員室の扉をノック。
やることだけをやってここからさっさと去ろう。そう心に留め、僕は職員室へと足を踏み入れる。厄介ごとである一人の教師の顔を見ないで鍵置き場である場所に部室の鍵を返し、そのまま帰ろうとする。
チラッとある教師の方を見たらこちらに歩み寄って来たので、足早に職員室から去った。が、そう簡単に逃げ出すことなど出来るはずもなく、
「太刀花? 少しくらい時間あるよな?」
まるでどこかの不良に従うかのように、僕は幸田先生と共に再び生徒指導室へと入室した。
対面の状態で椅子に座り幸田先生とのお話し合いが始まってしまった。
「どうだった、部活は?」
幸田先生の口調は穏やかな形に戻った。しかし、このような雰囲気は少しばかり気味が悪い。やはり口調が男っぽい幸田先生ではないと……。
「どうもこうも。まだ初日だし」
「そうか……じゃあ、
やっぱり聞いてくるとは思っていたが、面と向かって聞かれると言葉にすることがやや難しい。彼女への悪口になってしまう可能性も大いにある訳だし。出来るだけオブラートに包んで奥寺朱音の第一印象を告げる。
「驚きかな、奥寺さんに対しての想いとしては」
「へぇ、まさかあの
「好印象ではない」
「でも、同年代の女子としては二人目の候補?」
「……その言い方はよろしくない。それに僕は彼女と住む次元が違い過ぎる」
「次元が違うか……そういえば、朱音はどうした?」
「五時前に帰ったよ。僕に鍵を任せてね」
今更だが考えると、僕に鍵を任せたのは少し無責任だった気も……。
今は責任問題でもないのでここはスルーすることにする。
「ーーあれか……」
何があれなのかは不明だが、気にすることでもない。それより今はさっさとこの人との話し合いを終わらせたい。
この人は要件のメールだけは短い癖に、このような面と向かっての話し合いだと長過ぎる。長いではない。長過ぎるのだ。
どうすれば話し合いを終わらせることが出来るか案を出そうと踏ん張るが、元から諦め半分な状態だから出るはずもない。
「朱音は気に入った?」
「別にそこまで」
と、僕にとっては身のないどうでも良い会話がしばらく続いた。
流石に質問のストックがなくなったのか、一分ほどのインターバルを設けてから訳の分からない質問が飛んでくる。
「一つ聞きたかったことがあったんだ」
「何?」
「朱音とは以前から交流ーーもしくは接点があったのか?」
交流も接点も犯罪行為でならあると答えようとしたが、そのことについては既に昼休みの時点で幸田先生の耳には届いている。それに目を見る限りどうやらそれ以外での交流、もしくは接点をどうやら探っているらしい。
もちろん、そのようなことは一切なく今日が面と向かっては初ということを幸田先生に告げると、どこか納得のいっていない表情を浮かべながらもそれ以上の追及はなくなった。
腑に落ちないが追及しないならしないで、話し合いの終わりが早くなるから僕にとって喜ばしいことだ。
「どうしてそんなことを?」
「いや、気にしなくていい。ただ少しばかり相性が合ってると思ったからな」
「えぇ、相性? 僕と奥寺さんの?」
耳を疑う言葉に思わず笑ってしまう。しかし、冗談で幸田先生が言っているようにも思えず笑いが自然と消える。
どこを見て僕らの相性が合っていると判断したのかは分からない。が、幸田先生が言うのなら何かが見えたのだろう。自分なりに自己解決し、これ以上話を広げないよう先に終止符を打つ。
「ふぅん、幸田先生が言うならそうなんだろうね」
曖昧な感じで返事をしたことで、幸田先生もこれ以上に話を広げることなく僕は終わりを期待したが、その期待も外れ別の話に移ってしまった。
「話を聞いている限り、朱音はあまり輝希に踏み込まなかったんだな」
「ま、まぁね」
ずっと部室内で追い掛け回されてました、とも言えず後ろめたい感じに答えてしまった。でも、どうやら気付いてはいないようだ。
「だけど、いつかは踏み込まれると思うから早めに言わないとダメだよね?」
「それはそうだ。『女性恐怖症』だということを隠したまま、朱音に近付かれて症状を起こしてみろ。確実に朱音は傷付く。だから早めに言っとけ、輝希が思っている以上に弱いから朱音は……」
「弱い……? 分かった。明日にでも言えたら言っとく」
幸田先生の忠告を聞き入れ、僕の事情を早めに奥寺さんに伝えることにする。
これでやっと話し合いが終わるかと思っていたら、最後にぶっ飛んだ質問が投げられた。
「青春部に
「は、はあ? バカなの、こんなことを圭奈なんかに言ったら殺されるよ」
「そっか、私的には妙案なんだよな。もしかしたら学校内で唯一の繋がりになるかも知れないしね」
同じことを僕も考えていた。が、一番問題視となるのは部員だ。奥寺さんと部活動をしているとなれば、別問題だ。入って欲しいのは山々なのだが、出来れば隠し通したいのが本音である。
「一応、頭の隅には入れておく」
「じゃあ、私から一つアドバイス。三十分くらい前に教室へ荷物を取りに行った時、隣のクラスにはもう圭奈はいなかった」
「え……まずいよそれ、だってあいつ僕の下駄箱を確認する習慣が……」
「急がないとだな。もしかしたら正門で待ってるかも知れないし」
圭菜の顔が脳裏に浮かんだ。背筋が凍る嫌な予感しかしない。
僕はアドバイスをくれた幸田先生にお礼を言い、急いであいつから逃げるために昇降口へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます