第2話 まだまだ子供な二人
*
ある意味、激闘を繰り広げていた青春部の二人は
どうしても納得のいかない
しかし、お互いが手探りな状態なためか朱音の言葉を最後に二人からしたら睨み合い。第三者からしたら見つめ合いのような状況になっている。
どちらかが声を発せば良い。それだけなのだが二人は理由は違えど結果は同じような心理状態に陥っていた。
「……」
輝希は今すぐにでもこの部屋から逃げたかった。どうやら
幸田先生は僕の事情を僕以上に知っている。だから基本的に僕が嫌うことは何があろうとも未然に防いでくれる。でも、今回初めて幸田先生から機会を貰った。それが青春部という部活動なのか、それともはたまた
「……」
朱音は思い通りにシナリオが運ばなかったことに少しの戸惑いを抱いた。しかし、それが朱音にとっては一番の理想でもあった。
この高校に入学してから私は知らないうちに一目置かれる存在になっていた。何かをやったわけではない。ただ普通に過ごしていただけなのに注目の的となっていた。最初はもちろん嬉しかった。でも、最初と言っても二週間くらい。本音を言えば苦痛だった。
「成長したいなら、まずは自分のことを話せ。お見合いをしてるだけじゃ、相手のことなんか何も分からないぞ」
部室の入り口からアドバイスのような言葉が聞こえてくる。二人は息ピッタリにその声の主を目で追った。
「「幸田先生!」」
二人して部室の扉が開いたことに気付かなかったようで、驚きが混じった声を上げる。
「あ、悪い。良い雰囲気だったのか、すまない邪魔したな。私のことは気にせずに若い者同士でどうぞ続きを……」
まだ二十代のあんたが何を言ってる、とツッコミを入れたかったがクスクスと僕の近くから笑い声が聞こえる。もちろん誰だかは分かりきっている。
「プフ、なにそれ、幸田先生らしくない。それに緊迫した雰囲気だっての分かってる癖に」
「なんだその態度? わざわざ世話の焼ける問題児を助けてやったというのに」
問題児とは僕のことも対象なのだろうか……。世話が焼ける時点で完全に僕を指しているだろうな。問題児には否定はしないが……。
「助けてとは一言も言ってません! それに私は問題児じゃない。てか、先生の言い方にカチンと来る」
どうやら奥寺さんは幸田先生の言い分に納得がいかないようで、子供のように駄々をこねている。本当にこの人があの奥寺朱音なのか、と未だに疑ってしまう。でも、カチンと来た言い方であるのは僕も同感。
幸田先生に救われた形で部室内の雰囲気も和やかになり、今の青春部関係者が全員部室に揃った。一人は未だに好戦的な態度を取っているが、その一人を無視し幸田先生は早速部室にやって来た理由である本題の話を始める。
いつも目にするファイルを近くの机に置いて一度、幸田先生は部室から扉を開けたまま出た。直ぐに廊下からガラガラという音が部室に近付いてくる。何かを持って来たようだが、本人もその持って来た物もまだ扉からは見えない。
ガラガラという音がなくなると同時に白い物が扉の外に現れる。何を持って来たのだ、という疑問が浮かんだがその白い物を幸田先生が部室に引きながら入れるとその正体が判明した。
「ホワイトボード?」
「ああ、ここには黒板がないからな。代わりに隣の部室からくすねて来た。水性ペンも一緒に」
「えー、新品……。お古は使いたくない」
ツッコミどころ満載な女性二人のお言葉だが、ここは何も言わずにスルーしよう。言ったら負けな気がして嫌だし。だけど、一つだけ言わせて欲しい。水性ペンまでお古な必要はないよな?
幸田先生曰く、くすねて来たらしいホワイトボードを部室の扉から見て右側の壁際まで動かし、足の部分にあるローラーを動かないよう固定する。
くすねて来たホワイトボードを青春部の所有物として認識させてから、幸田先生が使い始める。
お古なホワイトボードにこれまたお古な水性ペンを使って、何やら『今後の課題!』と題した言葉を書いていってる。
僕たち傍観者の二人は何をすれば、どう反応すればいいか分からず、ただ幸田先生が書いている課題らしき文を眺めているだけしか出来なかった。
「これくらいかな……?」
五分ほどでお古だけど白かったホワイトボードにはギッシリと言葉で埋め尽くされていた。流石は女性ということもあって、多彩に色を使っているからかギッシリ言葉が埋まっていてもかなり見やすい。
そんなどうでもいいことに感心していると、早速幸田先生が本題を話し始める。
「さて、二人にはこれから出す課題を今月までにやってもらいーー違うな。達成させてもらう」
最後の部分を言い直したことにより、お願いから命令へと変わり僕たちは拒否することが出来なくなった。
課題とやらはもしやと思ったが、そのもしやが運悪く的中していた。
「その課題はなぁ、私の後ろにあるホワイトボードに全て書かせてもらった。そしてだが、この課題はずっと消さないで残す。……達成するまでな?」
ゾクりと身の毛がよだつ言葉を掛けられ、人形のように首を縦に振ることしか出来ない。改めて言うが、この人は本当に教師か?前世はヤクザじゃないのか?
「幸田先生? もし、その課題を私たちが達成出来なかったら……?」
「その時はな。廃部だ。青春部は」
「うんよし、やろう。
切り替えしが早いな。でも、その方が身のためだろう。それにしても達成出来ないだけで廃部とは……。
そこまでしなくても、と優しさが出てしまう。しかし、幸田先生の言葉でそうでもなくなってしまった。
「でも、酷くない? せっかく太刀花くんまで誘ったのに……」
「仕方ないんだ。校長から色々と今月までの課題を出されたのだから」
「課題って、それ全部?」
「ああ、言った通りだ。でも、存続を望むのであれば最低限この赤字で書いた課題を達成しろ。それが校長からの課題だから」
課題が全部校長のではなく、幸田先生のも入っていることに少し安心した。それでもホワイトボードを見る限り校長のはせいぜい二つ。対して幸田先生のは二十はあるな。卑怯な顧問の課題は重要そうのだけ残しておいて他は消そう。
もう一度、詳しく赤字の課題を見ると単純そうで実際は大変な課題だった。
「一つは部員の確保。文化部だと最低でも四人。だから残り二人だ。もう一つは活動内容の設定。曖昧に活動内容をボランティアって説明したから、詳しいことを改めて伝えないといけない。だからまぁ、二人で決めて。ボランティアのツテは私が持ってるから」
二つ目のはひとまず置いておいて、問題は一つ目だ。部員がいないとどうしようもないなら早くどうにかしないとならない。でも……。
「部員については奥寺さんが適任だと思うけど……」
「わ、私?」
「そう、だって奥寺さんなら……」
学校のアイドルだ。奥寺さんが部活をやるって言ったら人数など簡単に集まる。そう僕は単純な思いを抱いていた。しかし、僕の考えは彼女を苦しめるだけだった。
「名前ね。……例え、太刀花くんが良くても私は絶対に賛同しない!」
僕は何も知らなかった。彼女が抱いてる苦しみを何も……。
これまた初めて見た表情だった。声を荒らげ否定する奥寺朱音はいつもとは全く違う。
踏み込んではまずい所に僕は踏み込んだと後悔した。奥寺さんの異変には気付いていたはずなのに何も考えず、行き当たりバッタリのような発言。
気まづい空気が部室内に流れ始めると換気をするかのように、幸田先生が気を利かせて話をズラす。
「はぁ……問題児二人をあやすのは大変。教師じゃなくて、モデルやってる方が楽だったかな?」
「「えー⁉︎」」
気まづい空気はどこかへ消え去った。しかし、二人には幸田先生に対する疑心感が新たに生まれた結果となった。
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