出発

 ルムネアとウリックは、相変わらず、主従のきちんとした関係を持っていなかったが、緩い主従の関係のまま裸馬のところへ、いった。

 馬は、おとなしく、<巨人のねぐらジャイアンツ・ネスト>森のなかで、草をんで待っていた。

 そこには、意外な二人がいた。<スパム・タング>と<フォー・アイズ>である。

「<スパム・タング>例のものを二人のクロージャーに渡せ」

 痩せぎすの<スパム・タング>が渡したものは、手綱たずなあぶみくらの馬具一式だった。

「どうして、こんなものが」

 ルムネアが尋ねると。

「訊かないほうがいいですよ、この俺が、手に入れる、やり方で手に入れたのでしょう

 とウリック。

「この<フォーアイズ>のパックがしばらく、この<巨人のねぐら《ジャイアンツ・ネスト》>の淵に残る。そして、この<スパム・タング>は、海草原シーグラス斥候ロング・リコンに出る。もちろん、<遠吠え>にもだ」

 と<フォーアイズ>。

「舌の名誉がかかっているのでな、もし事実なら、威圧した<クロービーク>に勝負を申し出る、この俺が、パックリーダーになる」

 と、<スパムタング>は胸を張って言った。

「どうかな」と<フォーアイズ>。

「それは、俺達と一緒に行動するということか?」ウリックが尋ねた。

「斥候は月下人の目、名誉ある役職だ。お前たちクロージャーとはいっしょに行かない」

 ウリックは、頷いた。

 ルムネアは、馬具を付け終えた。

 ウリックも、剣対を腰に巻き、長剣を掃いた。

「我々は、マイ・レディの弟君を救い出すため、<狼の遠吠え>城に向かいます。我々、ウァンダリア人は、月下人ムーン・メンの昨日のもてなしに感謝します」

 ルムネアは、一礼したが、それは、月下人ムーンメンの挨拶ではなかった。

月下人ムーンメンの挨拶は、ウリックがした。

 ウリックは、<フォー・アイズ>に正対し、<フォーアイズ>の胸をどんどんと二回叩いた。

「気をつけてな、フリーガイ」

「そちらこそ、」

 ルムネアが、もう既に馬上にいたが、ウリックは、下手にどうにか、馬に乗った。ルムネアの後ろにである。

 その無様な姿に<スパム・タング>は思わず吹き出していた。

 もう裸馬ではない、雄馬は、二人の月下人ムーン・メンを残し海草原に向かい、歩みを進めた。

「馬に名前をつけたほうがよくありませんか」

 と、後方から、ウリック。

「そうすると、別れが辛くなりますよ」

 ルムネアも相当の覚悟ではあるらしい。

「馬なんか、乗るの今日で二回目ですから」

 ルムネアとウリックは、太鼓椰子朴たいこやしぼくの梢、幹、茂みにバシバシ頭や体をぶつけながら、<巨人のねぐらジャイアンツネスト>を出た、月下人ムーンメンたちのようにはいかない。

 <巨人のねぐらジャイアンツネスト>の端には、独りの月下人ムーンメンがいた。<イエロー・トゥース>だ。

 ウリックは、軽く馬上から会釈したが、<イエロー・トゥース>は返さない。

バルドラ家の斥候が現れたと言われる海草原シー・グラスのほうを見つめている。  二人も、海草原シー・グラスに出た。

 果てしなく、下生えの草原がどこまでも続く。

 二人乗りのまま、雄馬を常歩なみあしですすめる。急ぐ必要は何一つない。逆に馬が倒れてくれたほうが困る。

 向こうは、西だ。


 海草原シー・グラスには、もう高々と日が昇っている。

 しばらく、駒を進めたところで、ウリックが言った。

「バルドラ家が、斥候を方々に放っているのも、全てのギャリトン家の旗手バナーマンの全てのが、バルドラ家になびいていないのかもしれませんね」

「威力偵察の意味合いもあるのではないかと思います」

「家や、国を治めるって大変ですね。ほら、あそこ」

 ウリックが指さした。

 先には、小高い、大きな岩が盛り上がっており、その上に、草原走狗猫そうげんそうくびょうが一匹居た。全長は、1.5メルドもあり、人の背丈ほどもある。耳をそばだて、目を細めている。

けましょう」

「随分、臆病なのですね」

走狗猫そうくびょうに追いかけられたことないでしょう、マイ・レディ」

「あるのですか?」

「何度も」

 ウリックが答えた。

「どうやって、切り抜けたのです?」

走狗猫そうくびょうって、本当に腹の減っているときしか、人を襲わないんですよ」

「からかわれただけですか」

「そうとも、言えますね、だけど、こっちは、必死で走りますけど」

 5メルドほどの距離で走狗猫のいる岩の横を馬で通ったが、走狗猫は一瞥しただけで、何もおこらなかった。

 しかし、1ホフも駒を進めないうちに、ルムネアが、異変に気付いた。

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