骨と幻
ウリックは、怪我の痛みのためか、あまり驚いた表情はしなかった。
「ウァンダリアのどこの家におられるのか、知りませんが、お助けするのは無理ですね」
ルムネアの表情が露骨に固くなった。
「
「まだ少女のマイ・レディと、武芸の嗜みなどなにもない、死体や負傷者から武具を盗む泥棒とでは、このウァンダリアで何をなそうとしても無理です」
「弟は、まだ、10歳です」
「
ルムネアに言葉がなくなった。悪い癖が出てきた、調子が悪くなると、うつむき、舌唇がにゅーっとデてしまう。
「ちなみに、どこの家に人質として取られているのか、訊いても、、」
「人質ではありません。被後見人です」
「しかし、身代金を払う、宛や見込みが無いから、人質というより、被後見人になっているのでしょう」
これには、ルムネアも言葉がない。
「最初から、おかしいと思ってたよ、」
と、ウリック。急に言葉遣いがぞんざいになった。
「ルムネア、オブ?」
ウリックが尋ねてみた。
言葉の代わりに、<狼の遠吠え>城のときのように、平手が飛んできた。
ウリックは、それを左手で受けようとしたが、肩口の傷が傷んでできなかった。モロにまた、平手を頬に喰らった。
「ルムネアという名も、偽名だろ」
そう言うと、二発目の平手が逆から飛んできたが、今度は、綺麗にウリックがその手を受けた。
このウァンダリアでは、家が滅ぶことなど、そんなに珍しいことではない。どこかの家臣や重臣でも、ちょっとした
それに、希望を持たせるためか、低い身分の貴族でも、乳母や周囲の侍女が
とにかく、ウァンダリアでは、よくある話なのである。
「痴話喧嘩か」
鞘にはいったままの大刀を杖代わりにして、盲目の
ルムネアは、少し涙を流していたが、自分が主君だと、いう挟持だけでギリギリ涙を流さずにこらえていた。
<フォー・アイズ>見えないはずなのに、ぐいっと、汚い手を伸ばすと、ルムネアの涙を拭いた。
ルムネアの目の下がずず黒く汚れて、余計に目の下にクマ出来たようになり、
<フォー・アイズ>は一歩踏み出し、言った。
「いいものを見せてやろう、
ウリックは、躰を起こしかけてやめた。
ルムネアは、<フォー・アイズ>についていった。
涙で、はっきり見えない中、どんどん、またもや、暗い月夜の夜道の中、二人は林を進んだ。
「こっちだ、女」
<フォーアイズ>の歩みは早い、まるで、見えているようだ。
そうとう、入り組んだ、藪の中を二人は、抜けた。
そして、かろうじて、月明かりが入る中、大きく森がひらけた場所に出た。
「ここは、、」
ルムネアが言った。
とにかく、白い太い棒がたくさん、無造作に横たわっていた。湾曲している白い棒もある。一本が、人の背丈や、それ以上もある。なかには、10メルドほどの長さの白い棒もある。
骨だ。骨であることは、ルムネアにもわかった。
それも、恐ろしい大きさの骨だ。
「このお陰で、この森は、<巨人のねぐら《ジャイアント・ネスト》>と呼ばれている」
「巨人の骨」
「ああ」
<フォー・アイズ>が頷いた。
「巨人は、確かにいた。わかっただろう」
<フォー・アイズ>は、立ち止まっていたが、ルムネアは、どんどん開けた場所にはいっていった。足元には、無数の"普通"の人間の骨も落ちている。
「巨人は、誇りある部族だった、しかし、最初の人々と海を越えてやってきた狡猾なウァンダル人と、鉄の鳥に乗った、空から来た、小人たちが、結託し、骨より硬いウリリア鋼の刀で巨人を切り刻み、ログロアの山で取れると言われていた不消水で巨人を焼き殺した、その子孫が、お前たち、クロージャーだ、女よ」
「私達の、巨人の伝説は、ちょっと違うわ、巨人は、もともとこのウァンダリアにはいなかった、ウァンダル人が巨人を連れて、ウァンダリアに上陸し、もともと住んでいた、最初の人々とこの大陸とこの山と森を交換した、それ以来、巨人は、この
「随分、勝手な伝説だな」
「そうでもないわ。辻褄はあってるわ」
「
ルムネアは、とても大きな髑髏の手前で立ち止まった。大きさは、高さ、幅、人五人分ほどある。
「巨人が伝説でないことが、わかっただろう」
<フォー・アイズ>が言った。巨人の髑髏の巨大な眼孔がルムネアを見つめ返していた。
巨人の骨には、何体ぶんもあり、まだ、新しい人の形を残したままの骨格や乾燥した皮膚や布が、張り付いている骨もあった。
「これが、暴れたら、世界が変わりますね」
とルムネア。
「よく見ろ、クロージャーの女、巨人だけではないぞ」
ルムネアが、俯瞰して見るため、大分、下がり元も場所まで、戻ると、この墓所の端、または、よく骨を見ると、巨大な、爬虫類の頭部の骨格や、見たことないほど大きな動物の骨が、散乱していた。
どんな肉や、皮膚がついていたか、想像するしかないが、ルムネアが聞いたり、読んだ伝説上の生き物たちに違いなかった。
ルムネアと<フォーアイズ>が通ってきた、暗がりから、声が聞こえた。
「だから、言ったんだ、あれは、見間違いじゃないって」
現れたのは、<スパム・タング>だった。
<フォーアイズ>は、おし黙っていた。
「<フォーアイズ>あんたは、人が見えないものを見てる、おれが、嘘を言っていないこと知っているだろう」
「わからない」
<フォーアイズ>は、盲目の白く濁った目玉で、<スパム・タング>を見据えた。
誰も、抗えない、心眼だった、いや、神眼だとルムネアは、思った。
「<スパム・タング>よ、この俺も、幼いころは、お前と同じに世界が見えていた。どんどん見えなくなる、恐怖はそれは恐ろしいものだった。絶望だった。恐怖も、興奮も、絶望も、希望も人に幻を見させる、そして、人は、見たいものだけ見る」
<フォー・アイズ>には、今、本当に4つの目があるようだった。
「それしか、見えない、おれには、言えない。俺達より、このクロージャーのこの女の問題だ」
<スパムタング>が、小さくだが、頷き、ルムネアのほうを見た。
しかし、そこには、もう既に、ルムネアはいなかった。
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