話し合い
ルムネアはついていくのがやっとだった。
幾分、夜分の月明かりの上に、
それに、足元は根がうねるように、重なり、平ら場所などない、このはやしそのものが、生きている、巨大な生物のようだった。
この<巨人のねぐら>の林そのものが、
しかし、<クロー・ビーク>のパックの跡を辿っていると、不思議と、幹や、枝葉で躰を打ったり、小枝が顔に降り掛かってきたりしない。
木々が無秩序に生い茂って居るところを無暗に歩いているのでなく、ちゃんとした
暫く歩くと、開けた場所に出た。
広場の様になっており、真ん中に、このウァンダリア最大の巨木、
樹齢何千年になるのだろう、周囲は、数十メルドになるはずだ。こんな大木をルムネアは見たことがなかった。
「なんて、大きな木」
思わず、口をついていってしまった。
いつのまにか、側にいた、<レッド・マインド>が言った。
「我らを守る、
そのとおりだろう。、
神格化していることは、ルムネアにも容易に想像できた。
覆い茂った、
丁度、夕食時分に到着した、<クロー・ビーク>のパックは、ルムネアともに、夕食にありついた。
この
ウリックは、馬の背に揺られた後、女性たちに連れられ、怪我の手当をされた。祈祷師とともに、魔除けしてから、相当荒っぽく傷口を縫われることになりそうだ。
ルムネアは、夕食を遇した。
快く食べられそうなものは、少なかったが、客人として歓待されているのだ、食べなければならない。彼らは、パック・リーダーの権威が怪我されただけで、そのものの目を奪うほどの部族だ。
月下人は、一切、栽培というものをしないらしい、狩ったものか、ぎりぎり牧畜したものの乳や卵、肉。
出された食事をみて、そんなに歓待されているわけでもないことがすぐにわかった。
全員食べるモノは全く同じである。
カデナッツの実が小麦の代わりで主食になっているらしい。これが、パサパサして全くおいしくない。
食事は、月下人、全員が相当待ちに待っているものらしく、全員ものすごい勢いで食べる。
どの料理もルムネアらクロージャーにとって、調味料が使用されていないことが一番の"不味い"原因だった。
肉類の出汁以外に、味付けがなかった。望外に美味かったのは、デザートとして出された、果実類だった。
これは、そっくりそのまま、その味を楽しめた。
食事が、終わると、ルムネアは、あっという間に、
大人たちも子どもたちを一切止めない。
ついで、ルムネアと同世代か、やや上の女性たちに取り囲まれた。この集団は、共通語が話せた。
「クロージャーの男?」
そして、くすくす笑い。卑猥なこともはいっているらしい。
「えっ」
ルムネアが戸惑うと、どうやら、ウリックのことを話題にしているらしい。
「クロージャーの男、みんなチビ、デブ」
キャラキャラと、周りの女の
<レッド・マインド>は、細い木の枝で歯を磨きながら、やれやれといった表情でそれを眺めている。
「あれは、クロージャーの中でも、とりわけチビでデブです」
ルムネアが、そう言うと、場はどわっと受けた。一番笑っているのは、<ナイト・フラワー>という、この部族一の美人である。
それより、ルムネアが気恥ずかしいのは、食事の後、皆が見ている中、いたるところで、性の営みが始まることである。
露骨に腰が動き出して、ルムネアは、目のやり場に困った。
そこへ、<クロー・ビーク>がやってきた。
「パック・リーダー全員と、話がある」
ルムネアが、呼ばれた場所は、
5人のパックリーダー全員が集まっている、どれもが屈強な
さっきの様子から5人全員に犯されるのでは、ないかと身構えたが、違った。
5人は、<クロー・ビーク>に、背はそれほど高くないが、相当のパワーを持っていそうな、<レザー・マザー>。
大概は、泥炭の炭と燃えた灰とでは、二色で顔を塗り分けているのだが、この
そして乱ぐい歯でしかも、自分の歯を己でギザギザの尖った歯に削リだしている<グリタリー・スマイル>。
最後は、祈祷師も兼ねている、盲目の
<クロー・ビーク>がまず、口火を切った。
「斥候の<スパム・タング>が異変を感ずいていた、
「<巨人のねぐら>の西側の
と<グリタリー・スマイル>。
「クロージャーの女、なにも、訊いていないのか」
と<ロード・ブラック>、<フォー・アイズ>も目を向けている。<フォー・アイズ>のおでこには、泥炭の炭でもう一対の目が描かれている。
「私は、西の王の被後見人で、簡単にいえば、西の王の虜囚でした。誰も虜囚には真実を告げません」
ルムネアは、<クロー・ビーク>にも先に告げた、事実を語った。
ルムネアも含めて一同、深い溜息。
十二分に間を取ってから、<レザー・マザー>が言った。
「<スパム・タング>が、血迷ったことを言っている」
「<スパムタング>を呼んでいる、直接訊け」と<グリタリー・スマイル>。
<グリタリースマイル>が、合図を送ると、月下人にしては、ひょろっとした痩せぎすの月下人が現れた。
<スパムタング>だ。
「パックリーダーのあんたらの判断に委ねるが、俺は、見た」
「なにを」<レザーマザー>がすごんだ。
「シーグラスの西の果てで、巨人の影を」
「怯えた、嘘つきめ」
<レザーマザー>が言った。
「本当だ、しかも、何体も」
「怯えは、人に幻を見せられる」と<フォーアイズ>。
「そして、巨人の足音が止んだとき、ケルベロスの軍隊は、海へ全て叩き落された」
と<スパムタング>。ケルベロスの軍隊とは、ギャリトン家の軍隊を指している。
「パックリーダーのまえでの、嘘は、舌落としに値する、ちゃんと分かって言っているのか」
と、<クロービーク>。
「ああ、分かっていっている」
「では、聖なる巨人の名の
と<レザーマザー>が言って、実際に、腰の小刀を抜いた。
<スパムタング>が怯懦の者ではないことが、次の行動で示された。
「落としたければ、斬ってみろ」
<スパムタング>は、そう言うや、自らニューっと舌を出した。
パックリーダーもまた、つねに、試されている。これが、月下人の社会だ。
盲目のパックリーダー、<フォーアイズ>が言った。
「禁忌だ」
全員が、<フォーアイズ>を見た。
「<クロー・ビーク>、禁忌とは何だ」と<レザー・マザー>。
「<フォー・アイズ>に訊け」
<フォー・アイズ>は、座り直し、語りだした。
「小さい子が親を殺したのだろう?。なにか、チートか、まがい物が、あったんだろう」
「火吹き
「それに関連しているかも、」と<フォー・アイズ>。
「クロージャーの女、巨人に関して、知っていることは?」<クロービーク>が尋ねた。
「あなた達のほうが詳しいでしょう、伝え聞いた話以外に見知ったことはありません」
ルムネアも、言いきった。
「クロージャーの女、後で、見せたいものがある」と、またもや<フォー・アイズ>。
「ちょっと待って、ウリックの様子を見ておきたいから」
ルムネアは、軽く"クロージャー"流に会釈し、会談を辞去し、
そこには、ウリックが横たわっていた。
なにやら、汁物を貰っていた様子だ。
ウリックは、気がついている。
「だいぶん、よくなりましたよ。マイ・レディ」
「なによりです、たった一日ですが、あなたの忠義と忠誠には、心より感謝します」
「高貴な方から、生まれて始めて礼を言われましたよ」
「それは、あなたの今までの振る舞いに原因があったと思われますが」
「無視されてきたということを言いたかったんですよ。貴族なんて、あまり下々のこと相手にしてないでしょう」
「あなたには、まだ、働いてもらわねば、なりません」
「もうあの小さな食器のぶんは働いと思いますが、なんですか?」
「実は、私には、弟が居ます、その弟を救い出さねばなりません」
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