折衝
ルムネアは、なんと声をかけたらいいのか、全くわからなかった。
相手は、10人強。
囲まれて犯されるのだろうか?、それとも、皮を剥いで巨人への貢物にされるのだろうか?巨人が伝説なことぐらいは、知っている。しかし、
馬は取引の材料になるのだろうか、通過するだけとか、一晩泊まるだけなど、理解してもらえるのだろうか。
彼らは、自分が有利な立場にいることを認識しているらしく続々と、廻い詰めてきた。
ルムネアは、ちょっと安心した気がした。同族の女性の前で、犯すことはありうるのだろうか、
点取り屋が、とうとう、ルムネアの目の前まで来た。
最初に、口を開いたのは、月下人だった、点取り屋でなく、このパックのリーダーである、<クロー・ビーク> だった。帽子の代わりに、。鴉の頭部の骨を髪留めに使っている。もちろん男性だ。
「ギャリトンの城が、燃えた」
側面と背後に回られるのをルムネアは気にしていたが、月下人はあっという間に、側面背後に回られた。
もう、これで、逃げ道はない。
「紋章は見た。責めたのは、ギャリトンの
「そうです」ルムネアは、答えた。
月下人は、自分たち以外の部族と出会うときは、顔を異常なまでに相手に近づける。
<クロー・ビーク>も、ルムネアの胸元から、口先、おでこまで、匂いあげていく。
「女、今日、飯食っていない。月の血は始まっている」
「そうです」
ルムネアは、やろうと思えば、馬に突っ伏しているウリックの帯剣を抜くことは、可能だったが、その瞬間に、何本もの矢がささり、ルムネアもウリックも命を落とすだろう。
そしてこの馬も。
<クロー・ビーク>は、パックの全員に弓を降ろさせた。
少し、緊張が緩和した。
「男は、フリー・ガイだ」
「フリー・ガイ」
「フリー・ガイ」
ウリックは
「フリー・ガイは怪我をしているぞ、お前が痛めつけたのか」
<クロー・ビーク>が尋ねた。
「痛めて、運ぶ馬鹿はいません」
<クロー・ビーク>の表情が、馬鹿という言葉で変わった。
ルムネアは、慌てて、言い直した。
「あなた方を指して、馬鹿とは言っていません、言葉の表現です。馬鹿は私を指します」
<クロー・ビーク>の表情は、そのままだったが、
「このクロージャーの女は、自分を馬鹿といったぞ」
くすくすくす、、、程度の笑いが、月下人のパックにおこる。
「<遠吠え>の城を襲ったのは、ギャリトンの
<クロー・ビーク>は、まだ尋ねる。
彼らも、西の端のステッチャーが戦争を起こしたことを重大な脅威か、懸念事項としてとらえているのだ。
「おそらくそうです。
「なぜ、子が親に勝ったか、わかるか、クロージャーの女」
それだけは、ルムネアにも謎だった。<遠吠え>城をめぐる攻囲戦になる前に、一度、大きな会戦が北西部の海岸線であり、数が多かったはずのギャリトン軍は、ぼろぼろになって、。城内に逃げ込んできた。この戦いにもクレイダス二世は従軍していない。そして気がついたら、<狼の遠吠え>城は囲まれていた。 被後見人のルムネアには、それだけしかわからない。
「バルドラ、二つのフィスト」
バルドラ家の紋章の事を言及している。
「そうです」
たとえ数少ない事実でも、合意して、同じサイドに居ることを理解してほしかった。
「バルドラは、禁忌、破った」
禁忌!?なんのことだか、ルムネアも知らない。
その時、独りの月下人、<スィート・トウィグ>が雄馬のすぐ側までやってきた。
そして、馬に触り、嬌声を上げ
「俺が、一番に触った、俺の馬だ」と狂ったようにわらいながら言った。
すると、<クロー・ビーク>が、瞬時に小さな刀を下半身のどこからか居抜きでだし、<スウィート・トウィグ>の片目に投げつけた。
「ぎゃああああ」
<スウィート・トウィグ>は、片目を抑え悲鳴を上げた。<スウィート・トウィグ>片目に深々と小刀が刺さっていた。
年かさでバイス・パックの<レッド・マインド>が、<スィート・トィッグ>の後頭部を両刃の幅広の大刀の
そして、それに親や身分の差は一切関与しない、正に実力だけが支配する上下関係だ。
上位のものは、実力で押さえつけ、下位のものの挑戦を受けなければ、ならない。そのかわりに、挑戦はこのように大きな代償も払う。
<スィート・トィッグ>は、片目を失った、残りの人生を片目で生きなければならない。
<レッド・マインド>は、<スィート・トウィッグ>に刺さったままの小刀を抜くと、パック・リーダーの<クロー・ビーク>に渡した。
小刀には、べったり血がついていた。
禁忌とは、謀反の事を言っているのか?
<クロー・ビーク>は、ルムネアからやや離れて言った。もう月がのぼり始めていた。
「フリー・ガイは、我らの
「武器は、持たない、馬はどうすれば、いいのです?」
「馬もフリー・ガイを運んでいる、客人だ」
「フリー・ガイを手当してやってほしい、それが、唯一の私の望みだ」
「無論だ、フリー・ガイは、血を分けていないブローだ、見殺しにはしない、
<レッド・マインド>は<スウィート・トィッグ>を肩に担ぎ、<クロー・ビーク>は、さっさと踵を返し<巨人のねぐら>にはいっていった。
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