食器の騎士

 ルムネアは食器のナイフを男に突き出すとそう言った。

 雑兵は、サー・フォルムの槍をける、手前、丁度ひざまずいていた。

 雑兵は、よく見ると、背も低く小太りだった。胴回りだけの胸当てだけ付けていた。胸当てに紋章もなし。

 顔も怯え。鼻も丸く天を向き美男子には到底見えなかった。また、顔を隠すためか、卑しそうな頭巾を被っていた。それが、さらに輪をかけてこの男の見てくれを悪くしていた。

 ルムネアは、勢いだけで、続けた。

「名はなんという、男よ」

 雑兵はもぞもぞと小さな声で答えた。

「ウリック、、」

「オブ?」

 ルムネアが尋ねた。

かばねなんかないよ」

 ウリックが小さな答えた。

 ルムネアは、もう分かっていた。このウルックは戦場によくいる、武具泥棒だ。火事場泥棒と同じく、戦場の混乱に乗じ、もう武器を使わなくなったやつから、奪っていくだけの男だ。

「時がない、剣を床に立てよ、ウリック」

 ルムネアは小さい声で促した。

「おれ、騎士になんかなりたくないよ」

「命まで助けてもらった身分の高いものの命を聞けぬというのか、そのヘルムでよい、兜とはいえ、武具であることに違いはない」

 もう、<狼の遠吠え>城内は焦げ臭い匂いがしていた。不消瓶の火か、攻囲兵の付けた火が回っているのだろう。

 ウリックは、ヘルムを床に置くと、ルムネアは、ウリックがヘルムから手を放す前に慌てて、ウリックの両肩に食器のナイフをチョンチョンと当てると、言った。

なんじウリックをレディ・ルムネアの名において騎士に取り立てる」

 続けて、ルムネアは言った。

「ライズ、ザ・ウリック、今より永久とこしえに」

 聞こえないぐらいの声で、ウリックは言った。

「今より永久とこしえに」

「さー、サー・ウリック、立ちなさい、食器の騎士と名乗るが良い」

「それは、ちょっと嫌だ。あんた、レディかもしんないけど、おれより、年下だろ」

「口答えは許しません、サー・ウリック。さぁこの燃えさかる城から抜け出る、策をレディ・ルムネアに献上しなさい」

「走るぐらいかな」

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