死者からのメッセージ

@alamistmist

第1話 穴

 どす黒い雨空に、ピカリと一迅の閃光が走った。辺りに雷鳴が轟きわたり、それに釣られるかのように雨足がよりいっそう強くなっていく。風に吹かれてしなった木々が噂話でもするかのように不気味な音を鳴らしている。

 そんな悪天候の山中にぼぅと朧げな光が浮かぶ。ランタン片手に藪の中、シャベルを杖のようにして進む男の姿があった。男の名は渡辺といって、年の頃は28、定職には就かず保険会社に勤める彼女に養ってもらっている。レインコートのフードの下、大きな目に隆起の少ない骨格の童顔な顔立ちが覗く。しかし、そんな優男の顔立ちも今日は雨や入り混じった感情で崩れそうになっていた。


 渡辺の歩みがピタリと止まった。その足先の数十センチ先には、まるで待ち構えていたかのように、大きな穴がポッカリと大口を開けていた。穴の周囲はこんもりとした土の小山で囲われていて、まるでを掘り返したかのようだった。中の様子を見ようと屈んだところ、抜かるんだ地面に足を取られて渡辺は足を滑らした。

 痛みと衝撃に顔を全身で感じながらずり落ちたフードをあげると、丸い輪郭の空が見えた。穴の中だった。穴の中には何もなかった。しかし、”穴の中には何もなかった”という事実によって山本は自分の心臓がかつてないほどバクバクと鼓動し、全身から血の気が引いていくのを感じた。山本がパニックになるのも無理はない。


 ここには殺した親友の新居浜の死体が埋まっている筈なのだから。

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