少年の記憶

 身支度を済ませ、リネットの部屋へと向かう前にクロードの元へ行こうと、レティシアはいつもよりだいぶ早く自室を出た。


「アルセイ…? いらっしゃいますか?」


 レティシアはドアを軽くノックして、部屋の中へと声をかける。すると、


「レイナ? 朝早くからどうしたのですか? とりあえず、中へどうぞ」


 ドアを開けて、クロードはすぐに中に入れてくれた。クロードの使っている部屋に入るのは何気に初めてで、レティシアは少し緊張した面持ちで中へ入った。


「お、お邪魔します」


──クロードの部屋って、王城でも入ったことあったかしら……。


 レティシアが部屋へ入ると、すぐにクロードはドアを閉めた。近くにあったソファに腰掛けたレティシアを見て、クロードが声をかける。


「どうかされたのですか? 姫様」


 レティシアのいつもとは違う様子に、クロードが心配そうに声をかけた。


「……少し、気になったことがあって……。クロードは私が小さい時から側にいたわよね?」


「そうですね。姫様の幼少期より、私は従者としてお側におりました」


 クロードのわかっていた返答に、レティシアは昨日の夜に見た夢について質問する。


「じゃあ、1つ質問があるのだけれど、私と一緒にいるときに男の子も一緒にいたことってあったかしら?」


 レティシアの質問に対して、クロードは少し考え込むように指先を眉間にあてた。


「……いえ、私の記憶の限りではそのようなことはなかったかと思います」


「そうよね。ごめんなさい、変なことを聞いてしまって。ありがとう」


──やっぱり……。でも、それじゃああの男の子は一体……。


「いえ、かまいません。それでは、お務めに行かれるにはまだ早いでしょうし、久しぶりにお茶をご一緒にいかがですか?」


 クロードが小さく嬉しそうに笑う。


「そうね、お願い」


「かしこまりました」


 久しぶりに見た自分の従者の笑顔に、レティシアも嬉しそうに笑った。

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