リネットのお願い

──やばい……やっちゃった……。


 襲われそうになったからと言っても、相手はあくまで王子……。平手打ちをくらわせたあげく逃げるなど、一介の使用人がやっていいはずがない。レティシアはとにかく焦っていた。

このままではいくらリネットつきの使用人だからといっても、城を出されてしまう。そうすれば国王の使命も果たせなくなってしまうのだ。何とかしなくては……。


「ねえ、レイナ。元気なさそうだけど、大丈夫?」


「あ、はい。お気遣いありがとうごさいます、リネット様」


 リネットは、そう? とレイナから目をそらせた。


「そういえばね、カルロス様がお話されていたけれど、このお城に魔法師の方がいらっしゃるそうなの」


「先日、カルロス様とアレン様がお話されていたクロイアの魔法師たち……ですか?」


「そうそう。その方の中にすごく顔立ちがよろしい方がいらっしゃるんですって! レイナちょっと見てきてくれない?」


「ええ!?」


 言葉遣いや態度に気をつけていたレティシアも、さすがにリネットのこの言葉には驚きを隠せなかった。


「失礼しました……。ところで、どうして私にそのようなことを?」


「もちろん、私が気になるからよ! 本当に顔立ちがよろしい方だったら、一度は見てみたいじゃない?」


 リネットは何の迷いもなく言い切った。


「……わかりました。時間が空いた時にでも見ておきます。」


 レティシアも、しぶしぶ了承したのだった。

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