第二章・守り人

第三王子の戯れ

 レティシアがフラム大国に入って、二週間が経過しようとしていた。


「駄目ね……」


 レティシアは魔法師たちの情報がつかめず、悩みに悩んでいた。

 時折ときおりクロードにも会い、情報を聞くのだが、それはクロードも同じだった。


「誰かにけたら、苦労しないんだけど……」


「何に苦労しないんだ?」


「!?」


 突如とつじょ現れた人物は、なんとアレンだった。


「……いえ、何でもありません。失礼します」


 すぐにその場から離れようと、足早に階段を降りようとする。


「なに、つれないことを言うな」


 足を引っかけ、落ちそうになったレティシアを、アレンはぐいと腰回りをつかみ、抱きかかえた。


「ちょっと……! 何するんですか! 離してください!」


 激しく暴れるレティシアをおさえ、アレンはおかまいなく階段を上がっていく。


 そして、ある部屋のドアを開け中に入った。そこはどうやらアレンの部屋のようで、きれいに整頓されている。

 コツコツと足音をたてながら、奥の部屋へとアレンは歩を進めた。


「まあ、これでお前に逃げ場はない」


 そう言いながら、レティシアを突然放り投げた。


「きゃ……」


 思わず、レティシアから小さな悲鳴が漏れる。それと同時に、レティシアは地面への受け身をとろうとした。


 だが、レティシアの体は、地面にしては異様にやわらかい場所へ落下した。


「で、お前は一体何者だ?」


 ベッドがきしみ、アレンがレティシアの上へ覆いかぶさるように乗ってきた。


「……何者とはどういう意味でしょう?私はリネット様の侍女です。それ以外の何者でもありません」


 アレンのことをにらめめつけながら、レティシアはできるだけ冷静な声で言った。二人の視線が交差し合い、しばらくの沈黙が続いた。


「そうか、俺の思い過ごしか……。お前によく似た隣国の姫に、ずいぶんと前だが喧嘩を吹っ掛けられたのでな」


 そういうと、アレンはレティシアから離れ、壁にもたれかかった。


「そうですか……。しかし、それにしてもお戯れが過ぎるのではありませんか?」


 レティシアも起き上がり、怒りを込めながら言った。


「ああ、お前みたいな気の強い女には、これぐらいしないと効かないかと思ってな。それに……っ」


 アレンが最後まで言い終わる前に、レティシアの平手打ちがアレンを襲った。バチーンッといい音が鳴り、双方の顔が一瞬どちらも蒼白そうはくとなる。


「し……失礼しました!」


 レティシアはそれを最後にアレンの部屋を飛び出し、物凄ものすごい勢いで走り去った。




レティシアが自室から走り去っていくのを呆然と眺めたアレンは、じわじわと痛む頬を軽く自分の指で触った。


「戯れが過ぎる……か」


フッと一人少し笑った。



──それにあの時の姫なら────

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