二度目の出会い

 荷解にほどきが終わったところにカルロスとリネットは帰ってきた。


「おかえりなさいませ」


 二人へ一礼し、紅茶の準備をする。


「ねえレイナ、アルセイとはどうだったの?」


「何にもありません。リネット様、いい加減にしないと怒りますよ」


「だって気になるじゃない?若い二人って」


「気になりません」


「まあまあ、そこまでにしなさい」


 二人をなだめるようにカルロスが言った。


「リネット、レイナの恋に邪魔しちゃだめだろ?」


「わかりました……」


 ぷくーと怒りながら、渋々リネットは了承した。


 その時、コンコンと部屋のドアをノックした人がいた。


「ああ、やっと来たようだな。いいぞ、入って」


「失礼します。叔父上、叔母上お久しぶりです。ずっとご挨拶にも伺わず、申し訳ありませんでした」


 レティシアは、入ってきた人物に一礼し、顔をあげ、驚愕した。


「お気になさらないでくださいな。日々訓練でお忙しいのでしょうし……。レイナ、アレン様に紅茶をお願い」


「かしこまりました」


 紅茶を淹れながら、激しく動揺している自分の心臓を、懸命に落ち着かせる。


 自分は今、銀髪ではない。それにあの夜は仮面もつけていたのだから、大丈夫……。それに、こんなことで動揺していては後がもたないではないか、と自分に言い聞かせる。


「お待たせいたしました」


 アレンは紅茶を運んできたレティシアを一瞥し、少し眉をよせた。


「お前は……」


 どくっ、とレティシアの心臓が大きく波打つ。


「ああ、この子はレイナ。騎士の家の出身なのだが、もうフラム語も完璧だよ」


 カルロスの説明後、アレンへ向けて一礼する。


「そうですか……。どこかで会った気がしたものですから」


 まじまじとレティシアを眺め、アレンは視線をカルロスたちに戻した。


 すると、リネットがまたあの話題をだそうとする。


「あら、だめですよ? レイナにはちゃんと好きな人いるんですから」


「リネット様……」


 やれやれとカルロスも首を横に振った。


「リネット……。その話はさっき終わっただろう?」


「わかってますってば」


 もう……と、またリネットはそっぽを向いてしまった。


「ところで叔父上、クロイアの魔法師たちのことなのですが、どう思われますか?」


 カルロスの眉がピクリと動き、レティシアもさりげなく耳を澄ました。


「ああ。まだ誰が招き入れたのかもよくわかってないしな……。だが、一度は認めてしまった以上、すぐに追い出すわけにもいくまい」


「そうですか……、わかりました。あと軍の者たちが、叔父上がいないとしまりがないと嘆いておりました。早々のお戻りをお願いします」


 とたんにカルロスは笑い始めた。


「それはお前が厳しいからじゃないのか?アレン」


「断固として違うと思いますよ? 叔父上」


 そうか~? とニヤニヤしてくるカルロスに、アレンはムッとしたような表情を見せた。


「どちらにせよ、早く戻ってきてください。叔父上の部隊をまとめるのも一苦労なんですから」


 本当に手を焼いているのか、まだ険しい顔をしていた。


「わかったよ。まあ、お前の部隊でもあるんだがな」


 今のフラム大国軍の最高司令官は国王エドワードだが、第三王子であるアレンは剣術、馬術、指揮官としての才にも恵まれていたため、継承権第三位にもかかわらず、全部隊の統制を任されていた。


「本当、お若いのにすごいですわ」


「……恐縮です」


 リネットの笑みに負けたのか、アレンも素直に礼を述べた。



 そしからしばらくたち、アレンは時計に目をやった。


「申し訳ありませんが、ここで……。これから所用がありますので」


「あらそうなの? もっとお話ししたかったのに……」


 リネットが残念そうな顔をする。アレンがドアの方まで行き、


「それでは失礼します」


 と二人に一礼したので、慌ててレティシアはドアを開け一礼した。


 そして敵国初の一難目が、やっと目の前から遠ざかったことに、レティシアは一安心した。



 一方、アレンは


「まさか向こうからやってくるとはな……」


 そう短く呟いて、また無言で歩き去った。

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