従者の心
「もうすぐですね……」
馬小屋の前に立ち、独り言をつぶやいたクロードは、緊張と不安で一杯だった。もうすぐ姫がここへ到着する……。それを考えただけで、身震いしてしまうほどだ。
そして何より一か月ほど前のことが、一番よく思い出される。
「セルジュ様、それは本当ですか!?」
声を
「ああ。この頃フラム大国にクロイアの魔法師たちが集まっているようでな……、フラムとは昔からの
「ええ、もちろん
「そうなんだよ。俺も父上も必死に反対したが……。あのじじいどもめ……。クソッ……」
「セルジュ様…。姫のもとに戻ります。お気遣いありがとうございました」
「……クロード、すまない。レティのことよろしく頼む」
「はい。もちろんです」
そして、ある部屋の前に着き、ノックをする。
「どうぞ」
「失礼します。レティシア様」
中からは少女の声が返ってきた。ドアを開け、中に入る。
銀髪にエメラルドグリーンの瞳をした少女が、クロードのほうを見つめている。
「どうかしたの? クロード」
「落ち着いて聞いてください。……」
クロードはレティシアに今おきていることを伝えた。
もちろん、レティシアに
「そう……、わかったわ。大丈夫よ。クロードもいるんでしょう?それにそんな事出来るのは私だけでしょうしね」
自信に満ちた笑顔でレティシアは言った。
だが、それが本当の笑顔でないことくらい、クロードはわかっていた。この国でずっと疎まれてきたレティシアのことを、ずっと見守ってきたのだから。
「そうですね。姫様は最強ですから」
クロードは、レティシアを守れない自分の非力さを痛感しつつ、できるだけ力強く言った。
少しでもレティシアのことを守れるようになりたいと思った、少年時代の自分を思い出しながら。
それから間もなくしてクレテイユ国王オリヴィエが、王女レティシアにこう命じた。
「フラム王城へと侵入し、不穏な動きの正体を解明せよ」
と。
とにかく落ち着こうとクロードは、はあーと深く息を吐いた。
レティシアはクレテイユ王国の第二王女。本来ならこんな仕事は自分だけでいいはずなのだが、今回は他国の援助もあるため、そういう訳にもいかないらしい。
それとも魔性の子として疎まれてきた、レティシアだからこそ行っても平気だという、上のくそじじいどもの策略だろうか。
レティシアはとにかく自由奔放だったので、剣術、馬術、頭の回転の速さ、どれにおいても男に引けを取らないほどの実力者になった。
それと同時に女性としてのたしなみも心得ているのだから、心配はいらないだろう。
髪の色も変え、今は銀色ではなく茶色をしている。
──だが、もしクレテイユの王女だということがばれてしまったら……。
考えただけで、震えが止まらない。
それに、最後に国王とセルジュに頼まれたのだ。レティシアを守ってくれ、と。
──絶対に、守り通さなくてはならない。
そう自分に言い聞かせ、クロードは馬車の着く場所へと歩を進めた。
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