逆転したリアル

人の営みはほとんど完全にデジタルワールドに移行した。


校内にはエージェントが配置されている。エージェントは監視管理の目であり、調和コードを精製する薬剤師である。平時は生徒に紛れ、その文化コードに則した人格がトレースされている。


デジタルワールドにおいて性別は選択的で、選択しないことも可能だ。性別は趣味、個人をデザインする一要素になったのだ。もはや、物理現実に営んでいたときの、煩わしい異性、同性、両性、無性その他各性愛対象による区分は意味をもたない。彼らは自由に恋愛した。


当然、生殖のあり方も変化した。子を作る手段としての性行為は一部の愛好家によって存続するのみとなった。デジタルワールドで結ばれたカップルが子を望むとき、ふたりの遺伝情報から製作される。


このとき有卵性児と無卵性児が選択できる。デジタルワールドのなかで、そのことはあまり重要な選択ではないが、デジタルワールドにバグ、修正に伴う不具合、凍結、崩壊、消失等の、万一の危機に対して物理現実にマテリアルに情報保管しておくかという選択だ。俗に物理保険といわれる。その際、物理生体の生存を維持する費用が当然に発生し、無卵性児にくらべれば遥かにコストのかかる選択ではある。


物理現実と仮想現実の認識は、21世紀初頭までの認識に対して逆転が起きている。ほとんどの人が生涯を仮想現実のみに生きる。彼らのリアルは仮想現実であり、物理現実は彼らにとって不明瞭な空間だった。


(構想中断)

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