第三話童顔迷女と無自覚チートアブソーバー

「いらっしゃいませー」

そう言って人気のない店に入ってきた客を招き入れた。

早朝から隕石だので騒いでいた王都、ただでさえ客のいない店には客は入ってきた一人しかいないしかも、苦笑いでひいきしてくれている常連だ。

「朝食セットとコーヒーをお願いするよブラックでいいからね」

「はい」、とうなずき水を置いてマスターの元へ向かった。

「店長いつものです、今日はブラックだそうです」

四人組のテーブル二つとカウンター席が三つ、カウンターとつながっているキッチンと個室トイレしかない狭い店ではそもそも老人の声でさえキッチンまで届くのだ。


・・・三十分経ち多分最初で最後の今日の客は帰った。

「マスターゴミ捨ててきますね」

きょうの仕込み材料昨日の生ゴミもろもろを袋へ詰め店を出た。

ゴミを置きネットを掛けた、するとそばには赤い毛髪のような物があった。

(ん? 赤い毛髪?)

たどってみるとそこには十二才くらいだろうか少女(?)が倒れていた。

「迷子? でもなんで倒れているんだ」

まずは少女(?)を担ぎ上げ店の中へ入った。

「マスターこの子ここに寝かしてもいいですか?」

「あぁ、だがどうしたんだその子供」

やはりマスターにも子供に見えるようだ。

「外に倒れていたんですせめて、意識を取り戻すまでは安全な場所に置いておきたくて」

この子からは不思議な感じがした、だから助けたと言うわけではないが。

「別にいいんだがな客も来ないし、少し買い物してくるから皿洗い頼むぞ」

「はい、行ってらっしゃい」

皿洗いをしていると、少女が目を覚ましたのか起き上がった。

「大丈夫だったかい、君倒れていたんだよ」

「助けてくれてありがとう」

見た目どうり子どもみたいな声だった。

「君名前は? 歳いくつ?」

「わかんない」

名前を覚えていないのか、それとも記憶がないのか。

そうこう考えている内にマスターがかえってきた。

「今日はもう店じまいにするから帰っていいぞ」

「はい、お疲れ様でした」

普段なら客が来なくても店を閉めることはないが、マスターの副業でなにかあったのだろうか。

「君家の場所とかわかる?」

「わかんない」

(無邪気な子供にしか見えないよな)

「じゃあ少しの間家族が見つかるまで家にくる?」

「うん、いく!」

(これって俺逮捕されないよね)

少なからずの不安と恐怖に怯えながら家に帰宅した。



翌日、マスターの店。

「俺が払うからなんでも好きなもんたべて」

そういうと少女は「わーい!」と言いながらメニューを見ていた。

店のドアが開き武装した男が入ってきた男は拳銃をいきなり突きつけてきた。

「金出せじゃねーと頭に風穴あけるぞ」

売上の無いこの店に金など存在するわけがないのだが。

「お断りします帰ってください」

「あぁん? てめぇこれが見えねぇのかそれとも死にてぇのか?」

「帰れって言っただろ」

その瞬間武装した男はなにかに強く押されたような感覚に合い、のけぞり店の外に飛んでいった。

なにが起きたのか理解できなかった男は銃を捨てて逃げ出した。

「大丈夫か? リュウ」

「はい、問題ないです。しかしあの人はどうしたんですかね」

この人間こそ無自覚チートアブソーバー、リュウセイ。

「チートアブソーバー」そうボソッと赤髪の少女はつぶやいていたリュウセイやマスターの耳に入ることはなかったが。


お昼時になったが相変わらず客は一人も来なかったいつもくるおじいさんも今日は姿を見せない。

「今日は暇ですね」


更に二時間経ったが客は来なかった、いつの間にかマスターが消えてた。

ぼーっとしていたらマスターが慌ただしく帰ってきた。

「リュウ大変だその子供連れて避難しろ南王都が昨日ほとんど滅んでいたらしいとにかく北西に逃げろ」

普段は南方より危険な北方に逃げろという事は南方でなにかあったのだろう。

「君、早く逃げるよ」

赤髪少女の手を掴み外へ走った、焼け焦げた臭いがうっすらする。

すると突然目の前に青いドラゴンが落ちてきた。

「姫、探しましたぞさぁわたくしと共に山へ帰りましょう」

「ドラゴンが、しゃべった!?」

ドラゴンが姫と言ったのは他の誰でもなく赤髪の少女だった。

「私は…帰らない私はこの人と一緒に行く」

「その人間風情と共に歩むともうすのですか?失礼ながら姫様この虫けらは姫様に値する者ではないですぞ」

虫けら、確かにドラゴンからしたら周りを飛び回る蚊ですらないかもしれない。

「私は、いかない」

「ならば、力ずくでも連れて帰りましょう、そこの虫けらは死にたくなければここから消えなさい」

「お断りします」

内心完全にビビっていた、逃げたかったでも、逃げたくなかったただ一人名前も知らない女の子の為に。

「いやがっている女の子を無理強いするのは感心しないな鉄槌を加えてやろう、覚悟しな」

「誰だ! 姿を見せろ無礼者が」

ドラゴンが耳が裂けるようなおたけびをあげた。

すると二つの建物の屋根から二人の影が出てきた。

『片手剣技:シルバーバレット』

『エンチャント:スパーク』

二本の剣閃がドラゴンの目を切った、そして二人は振り返り赤髪の少女とリュウセイを担ぎ上げ全力で走った、(作者:言う言葉はもちろん)

「「逃げるんだよぉー!!」」




ー二時間前南王都ー

「カイザ、じゃなかったカズさんこっちは誰もいませんでした」

「こっちもよ」

シオリとユナ、カズの三人は生存者を一日掛かりで捜索していたしかし、生存者はおろか一匹の動物の姿もなかった。

「ユウキさん待ってください、私もうくたくたで」

「付き人がなに言ってんの、とりあえず王都全域を調べて帰るよジークのとこに」

南方から男女二人組らしき姿がカズには確認できた、カズは男の顔を見るなり全力で斬り掛かった。

『ブースト:エンチャント』

その剣に反応した男は自分の持っていた剣で防いだ。

「人に向かっていきなり剣を向けて飛んで来るとは、どこの無礼者だこのやろう」

「この顔を忘れたかこの人殺しが」

ユウキはすぐに思い出した自分の罪を決して償えない過去の出来事を。

「ユウキさん」、「カズさん」シオリとロイゼがほぼ同時に二人の名前を呼んだ、ちなみにユナは呆れた顔をしていた。

「今はお互い大切な人がいるみたいだし今は剣を納めようぜ、にしてもお前があの人の能力を引き継いでいるとはな」

ユウキの提案とつぶやきを聞いてカズは剣を納めた。

「事が終わったら叩き斬る」

「こわいこと言うなって」

カズが剣をしまったのを確認してユウキは座り込んだ。

「その姿は? お前暗黒騎士だったろ」

「なんで暗黒騎士だったのか知ってるのは知らないが、この姿に関しては俺も詳しくはわからないついでにいうと、能力はこうなった時に手に入れた」

「王の器の継承かうらやましいね、俺もこんな体になるくらいならそういう能力が欲しかったよ」

ユウキを除きその場にいた全員がその言葉の意味がわからなかった。

「そういえば紹介がまだだったな、同居人のロイゼだ」

「こっちも忘れてた仕事仲間のシオリとユナ」

「それでこの辺も調べたのか? お前ら以外に誰もいないなら俺は安全な場所に帰るぞ」

「安全な場所があるのか今、この国に」

「まぁ、心当たりがな」

しゃべっていると北から爆発音がした。

「そこに行く前にいまの爆発音を調べに行くってのはどうだ? どうせお前らも行く宛なしだろ?」

「乗ったが、お前に言われたからじゃないドラゴンは全部倒す」

「そういうことにしといてやるよ、まだ北側は無事だったみたいだな」

モンスターが国内に入ってこないよう低い壁で国内は囲われている、その中心に城、そして南北で国は二分にされていた。

ユウキ達がいるのは南側、完全に全壊していたから北側も同じかと思っていたがどうやら状況は違うらしい。



-で、現在-

「どうする?あのドラゴン共目つぶしたらもっと厄介になるぞ?」

「残念ながらどっちの目も切れてないらしいな」

「じゃあ囮使って足下から切り崩すか?」

「誰が囮をするんだ?」

そう問いかけられたユウキは後ろを振り返った、ユウキとカズいがいの人間がいる方向を。

「却下だ」

「まだなんも言ってねーぞ」

「私が囮になるこの人と一緒に」

赤髪の少女がリュウセイの腕を掴みながら自ら囮を買って出た。

「命の保証はしねーかんな」

「大丈夫、この人と一緒なら」

「お前はいいのか?」

ユウキがリュウセイに問いかけるとリュウセイは震えていたが。

「だい、じょうぶです一応あなた達を信じてみます」

「ならさっさとやっちまおう、これ以上増えると手に負えないからな、女性陣はここで待機」

ユウキ、カズ、リュウセイ、赤髪の少女の四人はドラゴンの後ろに出た。

「カズ準備しとけよ、二人とも始めるからな」

ユウキは左手に持っていた剣を地面に刺し地面に落ちていた石ころを拾い。

「ワンタンめーん」といいながらドラゴンの背中めがけて投げ飛ばし、剣を拾い直して建物の上へと飛んだ。

ドラゴンがリュウセイと赤髪の少女に向かい走り始めたのを確認して、カズとユウキは建物の屋根を全力で走った。

北側の建物はほとんど壊れてなく高所から攻撃できるのは好材だった。

リュウセイに向かい走り続けていたドラゴンが遠距離攻撃はないと過程しての作戦だったが、その読みは外れドラゴンは急停止して口から吹雪を放った。

「まずいっ」

ユウキがその攻撃に気づいた時は放たれリュウセイらに直撃した。

ユウキは後ろを振り返り足でブレーキを掛けたカズも同様に、ドラゴンの吹雪による攻撃で吹き飛んだと思われたリュウセイ達は無傷のままそこにいた。

「それがあなたの力『絶対力』全ての魔法、全ての能力アブソーブが使えあなたの意志じゃなくてもあなたを守るために自動で使われる防衛魔法もある」

「これが俺の力なのか今までなんの自覚も無かったのに」

思い当たることはいくつかあるでもそれが自分の力なのかはわからなかった、ただ運がいいだけだと思っていた程だ。

しかし、能力を目覚めさせたのは赤髪の少女のおかげでもある。

「この、小娘がぁー」

二人で話しているとドラゴンが走りながら突っ込み爪によって赤髪の少女を刺していた。

「これで私の役目は終わりでも、あなたは悲しむ必要はない、あなたは幸運と運命に守られているわ」

少女がしゃべり終わると同時にドラゴンが少女から爪を抜いていた。

「貴様も死ぬがいい」

大口をあけてリュウセイを噛み砕こうとしているドラゴンに向かい、建物の上から飛んだカズとユウキはほぼ同時にドラゴンに斬り掛かったが剣は当たる事無く二人とも吹き飛ばされた。

「あの青いドラゴン俺が戦ったやつとは別格かな、硬すぎる」

「それに関しては同感だ」

「十年前なら俺も平和ぼけしてなくてなんとかなったんだろうけどな」

「元々お前には期待していない、俺が奴を切り崩す」

「却下だ、お前の考えは大体わかるエンチャントを使い過ぎるなよ人に戻れなくなるぞ。

俺が奴を切り崩すお前はあの子供を避難させてトドメだけさせ」

「わかった」

「タイミング合わせろよ」

ユウキはそういうと指で三、二、一とカウントして指を下げると同時に能力を発動させた。

いまのユウキには少ない三秒でもそれだけあれば問題ない。

ユウキが右前足と羽を切ったタイミングで能力が切れて指示した通りにカズが動き始めた、ユウキが背中に回り刺そうとした瞬間ドラゴンはひっくり返り吹雪を放った。

着ていたジャケットを盾にして避けた先には大口を開けたドラゴンが待っていた。

ユウキはドラゴンの牙に剣を当てそれを軸に回転して体制を立て直し距離を取った。


「おい! 早くそっから離れろもう充分だ!」

「俺がいけないのか、もう少し自分の力について知ってれば。もう少し早く使いこなせるようになっていれば」

リュウセイの心のを罪悪感が襲った、もう少し自分が上手くやれればという。

強大な罪悪感が。

「許さない、ドラゴンは全て。俺がこの手で殺す!」

一瞬にして場を覆った凍りつくような殺気が漂った、それはその場に居た全員が鳥肌が立つほどの物だった。

「カズ! そっから離れろそいつ。相当の力を持ってやがる危ねぇぞぉ」

ふざけながら言うユウキの言葉は、ふざけながら言っているのにも関わらず冗談には聞こえなかった。

そして何より、ドラゴンがリュウセイを見つめ小刻みに震えていた。

「貴様、何者」

「お前は絶対に許さない」

『造型:光の剣』

光の粒子がリュウセイの右手に集まり剣の形へとみるみる変わっていった。

両手で持ち、持ち上げることなく地面に刃が着いたままリュウセイはドラゴンへ走り込んだ。

「ここから、消え去れぇ!」

そして右側から切り上げるように光の剣を一振り、抵抗する事も出来ずドラゴンは真っ二つになった。

そしてその剣の斬撃は、建物内に隠れていたシオリ達へ一直線に向かった。

「あ、こりゃまずい」

呑気な台詞を吐きながらユウキは全速力で斬撃の方へ走り込み。

シオリ達へ当たりかける紙一重の所で空中へと受け流した。

「あっぶ! 斬撃なのに何ちゅう威力だよ」

「あの、助けてくれてありがとうございます」

「気にしないでこっちの連れを助けるついで」

そういってユウキは剣をしまった。

「カズ、この国からさっさととんずらしよう、安全なところに案内する」

「あぁ、あいつはどうする」

「連れてくしかないっしょ、ここに放置してって死なれたんじゃ後味わりぃよ」

「だな」

カズはリュウセイの腕を掴み、半分近く無理矢理引っ張って居た。

思えばここから始まったのだろう、ユウキとカズとリュウセイの。

世界を救う物語は。

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もし最後に手に入れるなら愛?それともお金? 箱丸祐介 @Naki-679985

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