第3話『チーター』
「では、これよりCクラス対Dクラスの一時間の戦争を行います。勝敗の決死は代表者のCクラス代表川北とDクラス代表堀越のポイントが0になった瞬間です。では、開始は5分後に行います。各自準備をしてください。」
司会役として今回は生徒会の人が行うらしい。クラスは賑わっていたが、翔はふむ…と呟きながらクラス皆に向かって言った。
「時間もないから手道に済ませる。これは先生からもらった戦争の掟だ。」
『1、戦争中は暴力、殺傷などの行為を禁止する。
2、戦争のルールは下位のクラスが行う。
3、賭けはお互いが認め合ったうえで行う。
4、戦争中の不正発覚は退場とみなし、その人物のポイントを0にする。
5、戦争中に賭けたものは絶対に厳守される。
6、みんなケガなく戦争をするように。』
「ーー以上だ。」
翔が先生に言われたことを復唱するかのようにそのまま答えたためクラス内は騒然となった。
「とりあえず、今回の戦争の事の発端は俺にあるから俺が指揮をする。そして賭けるものはこのクラスの武具だ。」
クラスの連中は自分たちの教室を再度確認するかのように見た。ボロボロの机と椅子、ましてやカーテンすらついていない状態。その光景はまさに落ちこぼれといっても過言ではない状態だった。
「お前たちはこのクラスを変えたいと思わないのか!!」
「「「ウオー」」」
翔が一言強く言うと、クラス内がにぎわい始めた。
『それでは、ただいまより戦争を始めます。戦争内容はDクラスより「オセロ」となりました。では、各自始めてください。』
司会者の人が開始を宣言したが一向にCクラスの人たちはこっちに攻めてくる気配がない。
「やはりな…」
翔は一言呟いた。
「どういうこと?」
翔の横で堀越が聞いた。
「当たり前だ、これは一見ただの学園戦争しかないが実は王権の国盗りゲーム。まさか開始1分で攻めてくるような特攻兵はこの世の中にいない。」
「それは…なぜ?早く決着がついたほうが楽じゃないの?」
--こいつ、バカなのか。という言葉を出そうとしたが喉元が許さなかった。
「あのな、ゲームには必ずしもいるんだよ。『チーター』野郎が。」
「チート、つまりはイカサマってこと?」
「そういうこと、戦争のルールに『戦争中の不正発覚は退場とみなし、その人物のポイントを0にする。』とあるが、あれは発覚してからだ。」
「相手の…イカサマを破れないと退場に出来ない?」
「頭の回転が良くなってきたじゃないか。大正解。しかし、参ったな。」
「何がよ。」
「いいか、オセロには10の28乗の攻略法がある。相手がその10の28乗の勝ち方をすべて暗記している奴がいると…こっちがどう頑張っても勝てなくなるぞ。他のボードゲームなら例えばチェスが10の50乗、将棋なら10の71乗とまぁ…いろいろあるわけだ。」
堀越には翔が何を言っているのか分からなかった。
「どういう…ことよ。」
「詳しく説明するとだな、一つのゲームには必勝法があるだろ?」
「う、うん。」
「俺が言っているのはその必勝法をすべて覚えているかどうかということだ。」
--そんなの…勝てるわけないじゃない。
「そうなってしまえば…勝てない。」
堀越の思っていることを見透かしたかのように話した翔を見て、目を丸くした。
「納得が行ったか?さて、そろそろ相手も痺れてきたことだし攻めますか。」
翔は立ち上がり、クラスの元気があるやつの方に行き、言った。
「お前、とりあえず、Cクラスに偵察、様子を確認してこい。相手からゲームを挑まれた場合はどちらでもいい。」
「分かった。それじゃあ行ってくる。」
--どういうこと?
堀越は頭がこんがらがった。自分は学力で間違いなく優秀な成績を持った。しかし、本人の願いとは違ってなぜかDクラスへと配属が決定した。もちろん、抗議はしたが結局変更は認められなかった。今、その理由がなんとなく分かったような気がする。
「なぜ…攻めに行ったの?」
「んあ?お前さ、いい加減にこの状況にある事を忘れるなよ。」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。」
「悪い、怒ったつもりはなかったんだ。で、あいつらを出した理由?簡単だよ。四十八句あいつらが戦っても勝てない。それは相手がイカサマをしていると睨んでいるからだ。最初の時間、相手も俺たちもせめて来なかった。相手はもしかしたらこっちがイカサマをしているかもしれないと読んでいるからだ。イカサマを仕組む時間はたくさんあったからな。でも、こっちは何もしていない。相手は準備が整ったのに攻めてこないからイライラしている。そんなとき、あんな全力な少年を送り込んだら相手はどう考える?」
「絶好の…カモ?」
「そういうこと。」
頭の良い堀越が翔にあれだけのヒントをもらってようやく解けたのだから他の連中が解けるわけがない。しかし、この男はそれをあの時間だけで解いたというのだから堀越は驚かないでいられるわけがない。
「翔くん、はっきり答えてちょうだい。」
「うん?」
堀越はここまで考えている翔に希望を覚えながら質問をした。
「ここまですべて翔くんの予想が当たっていたとしてあなたの考えだと勝率は何パーセントになる?」
翔は重い口をゆっくりと開いた。
「そうだな、これが戦争なら間違いなく勝率は0だ。見ればわかるだろう、誰だってこんなの経験したことないんだから。」
「ぜろ…」
でも、と言って翔はつづけた。
「これが、一つのゲームとしてだった場合の勝率は100だ。」
0か100か、その自信はどっから出てくるのか翔はニッと笑った。その笑みが堀越には獲物を見つけたような笑みのように見えた。
「Dクラスの男子が戦死、Cクラス側のポイントに変更は無し。」
ーーやはりか、ということはあっけなく負けたというよりは大分時間が掛かっている。ということは多少は粘りを見せたということになるな。よくやった。
「どうする大将。」
クラスの男子が翔に問いかけた。
「そうだなぁ…向こうが一向に攻めてこないということはまず間違いなくそのエリアじゃないと使えないものを使用している。こっちに攻めてくるとイカサマをされると考えているからな。しかし、どうしたもんか…」
状況は変わらず時間だけが過ぎていく。翔の頭の中には必勝法と呼ばれるものは一切存在していなかったが何とかなるだろうと見ていた。だが、思っていた以上にCクラスの連中が攻めてこないもので計算が狂った。
ピロピロピロ…翔の端末に電話が鳴った。
「審判、電話をしてきてもいいですか?」
「構いません。その間は休戦としタイムも減ることはありません。」
「了解。」
翔は電話の宛名を見た。そこには見覚えのあるようなないような電話番号があった。
「もしもし…」
翔が出ると、聞いたことある声が翔を呼んだ。
『おにい…』
「え…」
なぜ…こいつが連絡できるんだ?と翔は頭の中で計算をし始めた。
「おい、なーに不正アクセスしているんだよ。愛。」
『てへ』
ーーてへじゃねーよ。一応、お前が連絡してくるのは違法だからな。
『…おにい、なんか面倒ごとに巻き込まれたって声しているけど…なにかあったの?』
ギクリ…まさか、どっかでこの戦争の事がバレているんじゃないか。
「ま、まあ面倒ごとに巻き込まれていると言ったらそうなるけど…」
『おにい…勝てそう?』
「どっからその情報を入手したとはあえて追及しない…」
翔はここでいったん息を再度吸って気持ちを入れ替えた。
「ああ!俺を誰だと思っているんだ?天才ゲーマーだぞ。こんなので負けるようならゲームを引退するね。お兄ちゃんに任せとけって。」
翔の力強い声を聴いて愛は安心したような声を出した。
『うん。でも一応心配だから私もチートを使う。』
ーーいや、ゲーマーがチートとか言っちゃいけないでしょ。
「チートって言ったって何するんだ?」
『おにい、端末をもらったときに付属のイヤホンをもらわなかった?それをつけて…』
翔は愛の言うとおりにした。
「こうか?でもこれで…」
「これで私の声が聞こえる。」
「でも、お前、画面がないぞ。」
「問題ない。すでにオセロの攻略法ならすべて暗記している。おにいは相手の手と私がいう手を行動する。」
--おおう、やるなぁ、この天才少女は。お兄ちゃんそんなの微塵も感じなかったよ。
「分かった。俺たちは2人でマスターだ。俺が相手のチートを見破るからお前は戦術を頼む。」
「了解。」
こうして1人で2人の最強のゲームプレイヤーが現れた。
ーーやってやろうじゃん。Cクラスのイカサマを真っ向から乗り込んでやるぜ。
「大将、お戻りになりましたか。緊急事態です。」
翔が愛との電話を終わらせたふりをしてイヤホンに音が聞こえている状態にしている時に戦況は一転した。
「緊急事態?」
たまたま近くにいた審判に翔は再選を申し出た。
「審判、再戦を頼む。」
「え?再戦ならすでにしていますよ。」
ーーな?どういうことだ?
審判は続けて言った。
「先ほど、川北様と堀越様の双方の主張により戦争が再開しました。」
「それは…本当なのか?」
「はい。」
あの、バカ野郎が。余計なことをしやがって。
「それで、緊急事態というのはそれで堀越が追い詰められているというのか。」
「はい、そういうことです。」
ちっ、とりあえずは堀越の方に行かないと。
「これで、チェックだ。」
Cクラスの奴か。対戦相手は…堀越!?まずい、このまま負けを認めるわけには行かない。
「くっ…いったい、どうすれば…」
堀越が追い詰められている。とりあえず、この盤面を見ないといけない。
翔が人ごみを掻き分け、堀越に近づいた。
「堀越」
「翔くん!?」
翔は堀越の隣に座った。そして堀越の盤を見るとこりゃまあ酷い盤面で角はかろうじて一つとっているがでもほぼ相手のペースにいた。
「おい、お前はなんだよ。こっちはいま良いところなんだから。邪魔をしないでくれるかな?」
Cクラスの男子が不機嫌そうに言った。それもそうだ、自分はほぼ勝ちを確信しているんだから。
「まぁ、待てよ。お前もこの大事な勝負をみすみす逃したくはないだろ?そこで提案がある。このこちらが絶対的不利の状況から選手を交代してくれないだろうか。」
翔の提案はぶっつけ言ってしまえば賭けである。ここで相手が乗らないと翔は活躍できないまま負けることになる。
「いいよ。ただし、負けたら君の分のポイントもはらうことになるけど…」
「構わない。さあ、始めようじゃないか。ゲームを。」
翔はゲーマーとしての笑みを浮かべ、完全に敗色濃厚の状態からゲームを始めた。
それから5分後
「チェックメイト。」
「負けた…」
一人の男子生徒がつぶやいた。
「それじゃあ、賭けたものを献上してもらおうか。」
ゲスな声で放ったのは翔だ。ゲームには翔が勝った。あの絶望的な状況からよくもまあ勝ったというところだろうか。
「ああ、一つ良いことを教えてやろう。お前さ、『チェック』の意味をはき違えていないか?」
「どういうことだ?」
呟く少年に翔は続けて言った。
「『チェック』は将棋でいう王手だ。ただし、『チェックメイト』は違う、勝利したという意味を表している。その意味を間違えるんじゃねーぞ。」
少年のポイントを奪った翔は堀越の方を見て言った。
「お前さ、何でこんなことをしたわけ?」
堀越は涙ながら言った。
「だって…あなたに任せっきりでわたしが何もできていない。それなのに代表を語っていていいのかなって思ったの。翔くん、私はクラスを守りたかったの。でも、敗北が間近になって怖くなった。」
翔は少し、空を見上げるといった。
「分かった。もういい、お前はここで見ていろ。Cクラスの野郎、絶対に許さないからな。うちの代表を泣かせた罪は重いぜ。」
翔はDクラスをゆっくりと一周し、Cクラスに乗り込んだ。
「Cクラス代表に話がある。俺と一対一で勝負をしろ。」
その言葉にCクラス代表の川北は持ち前の眼鏡を掛けなおした。
「お前は?」
「俺はDクラスの緑橋翔、この戦争の原因でもある人間だ。」
翔は大きな声で宣言した。
「この勝負に賭けるのは俺と代表である堀越の全ポイント、そして賭けてもらうのはお前のポイントだ。」
さあ、勝負もいよいよ大詰めを迎える。
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