第2話『ビギナー』

「なるほどね、これがこの学園のルールか。」


 翔は呟きながらさっきはいった7万のポイントを見た。林は今頃退学届を書かされているのだろう。自業自得だ。そんなことはどうでもよく、翔の頭の中には一番になるという言葉が出ていた。


「とりあえずは、了承の返事をあいつ…名前忘れた。そもそも名前聞いてなかったな。明日聞けばいいか。」


 翔はそう言うと眠った。


 朝、翔は開口一番に少女の部屋へといった。


「なに?」

「おはよ」


 一言呟くと少女は最初は睨んでいたものの、何とか部屋へと入れてもらうことができた。


「それで、話をきかせてくれるのかしら。」

「ああ、いいよ。あんたの話に乗ってあげる。」

「駆け引きのつもりかしら。私は本気で言っているのだけど。」

「もちろん、本気に決まっている。こんなに面白い話なんて他にはないからな。」


 少女は髪をなびかせ、ゆっくりといった。


「分かった、ならまずは一個上のCクラスを攻めるわ。」


 少女の言葉に翔は反論を言った。


「待て、お前が最初からAクラスを狙わないというのには理由があるから追求しない。だが、俺たちの計画にクラス全員が乗っかるか?俺やお前はクラスを団結させるための人なんて…」

「あら、そう言う人なら普通にいるわよ。」


 少女の言葉に翔は驚いた。ここまでの手の速さに感心してしまったのだ。


「へぇ…ならクラスの時に紹介してもらおうかな。それじゃ、俺は学校にいくからお前も遅刻しに無いようにな。」


 部屋を出ようとした翔を少女は引き留めた。


「待ちなさい。聞いていなかったけど、あなた、名前は?」


 そういえば、名前を名乗っていなかったとこの時、翔は理解した。


「翔、緑橋翔。好きに呼んでくれて構わない。」

「翔くんね…私は堀越小雪よ。」

「堀越か…覚えておく。」


 翔は今度こそ堀越の部屋を後にした。



 そして教室についた翔を待っていたのは


「緑橋くん、君、Cクラスの人を倒したってホント?」


 という、昨夜のことが一転して学年にわたっていたのだ。


「はぁ…まあな。俺たちのクラスの事をバカにしたからゲームで対決して俺が勝った。それだけのことだよ。というか、詳しい話は俺じゃなくてそこの被害者にでも聞けばいい。俺は途中からしか聞いていないからな。」


 翔は人混みを掻き分け、机へと座った。


「大人気ね。」


 遅れて、堀越が翔の隣へと座った。


「別に…」


 翔は別にまんざらでもないと言いたそうな雰囲気を出していた。


「ねぇ、聞きたいんだけど、どうやってCクラスの人を倒したの?」

「ただの、じゃんけんさ。ただし、賭けるものはお互いの存在価値。というゲームだよ。」


 翔は端的にかつ的確に答えた。


「ふーん、もう一個聞いてもいい。」

「どうぞ。」

「あなた、ゲームで負けたことある?」


 その質問は翔にとって愚問だった。


「ああ…常に俺はゲームで負けているよ。ただ…」


 翔は続けて言った。


「その負けている人に俺は何度も勝っている。今のところの対戦成績は1500戦中700勝700敗100引き分けだな。」

「ずいぶんと…長い付き合いなのね」

「そうだな、そいつが生まれて物心つくまでの間を覗けば毎日対戦していたな。」


 翔が何気なく言うと堀越が驚いた。


「あなた…いったい何者なの?」


 翔は何をいまさらといったような表情で答えた。


「なにって…ただのクラスメイトだよ。ただ、ゲームにかけての知識が人並み以上にあるだけだよ。」


 その時、教室の中に先生が入ってきた。


「昨夜、Cクラスの生徒が持ちポイントが0になったため退学になった。そのことで今回は話がある。お前たちの中にこの生徒のポイントを奪ったとCクラス側が主張を始めたのだ。そこでお前たちには今日の放課後、戦争を行ってもらう。」


 戦争、その単語が出たときクラス内は騒然となった。


「ま、待ってください。」


 そう言ったのは、昨夜、翔が来る前にいじめられていた人物だった。


「なんだ。言いたいことがあるなら言ってみろ。」

「昨夜、その生徒に僕はいじめられていました。そして、我々Dクラスの生徒たちも彼に侮辱されました。そこからの事は覚えていませんが僕はCクラスの主張を拒否します。」


 おお…言うなぁ。と、翔は少し感嘆になった。だが、それだけじゃ足りない。と同時に考えた。


「ふむ…だが、お前はCクラスの生徒が退学になった瞬間を見ていないのだな。なら、この証拠は不十分となる。」


 ーーそう、古今東西、どんな時でも必ず相手を陥れるのに必要になってくるのは情報とそれをうまく使えるかの技術力となる。少年が持っているのはいじめられたという情報だけ、それをうまく使えていない。


「そ、そんな…」


 ーーお前は間違っていない。言いたいことをきちんと言えている。それだけでいい事じゃないか。ただ、能力があってもうまく使えていないといけないな。しょうがない。ここは不本意だが手助けする形に周ろう。


 翔は立ち上がり、先生に向けて言った。


「先生、この会が終わったら話したいことがあるのですがいいですか?」

「分かった。もともと緑橋を呼ぼうと思っていた。その手間が省けた。」


 ーーやっぱりか…ということはCクラスの生徒を倒したのは俺だということが分かっているな。当たり前と言ったら当たり前か。


「分かりました。では、早く会を終わらせましょう。」


 翔は机に座った。


「じゃあ、今日もしっかりと授業を聞くように。以上。」


 先生の一言で会は終了となった。



 翔の予想通り、その後先生に呼び出された。


「緑橋、お前はなぜ、こうなったのか経緯を教えてくれるか。」

「唐突…ですね。」

「早く話を終わらせたいからな。」

「ハハッ、そうですね。単にそいつが気に食わなかった。それだけですよ。」


 先生は煙草を吸い始めると翔に向けて言った。


「放課後の戦争はお前がカギになるといっても過言ではない。」

「どうして、そう言い切れるんですか?」

「そりゃあ、お前が事の発端だからだ。」


 --やけにあっさりというなぁ。まあ、その性格は嫌いじゃないけど。


「先生、改めて聞きたいことがあるのですけど。」

「なんだ、言ってみろ。」

「戦争のルールについてですよ。」


 先生は煙草を咥えなおし、ニヤッと笑って言った。


「良いだろう。」


 そして、放課後、Cクラスとの戦争が始まった。

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