第1話『チュートリアル』

 少女が去って言った後、翔は一人ゲームをしていたが、少女の言葉が頭の中を駆け巡っていて、集中できなかった。

「やめよ、この状態でゲームやっても集中力が生まれないわ。」

 翔はパソコンを閉じ、夜風に当たるために外へと出た。

「お前ら…絶対に許さないからな。」

 翔が外へ出た時、そんな声が聞こえた。翔は物陰に隠れて少し動向を見守った。

「ケッ、悔しかったら今度の実力テストで赤点を取らない事だな。そうしたら土下座で謝ってやるぜ。」

 どうやら、最初の声の主は翔と同じクラスの人間、そして後に聞こえた声の主は翔たちよりもクラスが上の連中ということだ。

「くそっ…」

 少年は駆け出し、悔しそうに部屋へと向かった。

「ハハハ、やっぱりお前たち所詮Dクラスの連中はバカどもしかいないんだよ。」

 その言葉を聞いた翔は居ても立っても居られない状態にいた。

「ふ~ん、Dクラスにはバカどもしかいない…ですか。」

 不意に翔の口からそんな言葉が出ていた。

「何だよお前、逃げて言った奴の知り合いか?」

「いえ、特に話したことないんですけど…一応、俺もDクラスに配属されているので…少し、貴方の言っていることが気に食わなかっただけです。」

 翔がはっきりというと相手の顔がだんだんと険しい顔になった。

「お前…やるのか?」

「やるといってもそっちは暴力で解決しようとなんて考えないでくださいね。こっちが言いたいのはあくまで誰もケガのしないゲームですから。」

「けがのしない…ゲーム?」

「そうですよ。勝負はいたって簡単です。じゃんけんで決めれば文句はないでしょう。賭けてもらうのはお互いの存在価値、ってことでいいですか?」

「もし、引き分けたらどうする気だ?」

 翔は済ましたような顔で言った。

「その時はこっちもあなたも特に排出するものはない。ただ、忘れないでくださいね。これはゲームだということを。」

 瞬間、翔の目つきが変わった。彼はゲームの事になると負けない奴なのだ。

「分かった。乗ってやろうじゃないかそのじゃんけんとやらに。」

 相手の人が乗った瞬間、翔はにやりと笑った。

「ああ…念のためですけど、名前を教えてくれませんかね。そのくらいは出来るでしょう?」

「俺の名前は林、林元春だ。」

「林さんですか…よろしくお願いしますね。俺の名前は緑橋翔と言います。以後、お見知りおきを…」

 --こいつ、ふざけているのか?名前を聞きたいとかよくもまあ意味の分からないことを、しかし、勝てばいいんだ。勝てばすべてが解決される。

 こいつが最初から狙っているのは互いがリスクを負わない引き分け狙い、それだとこっちもリスクは負うことは無いが万が一負けてしまった場合、俺はクラスの恥さらしになってしまう。それだけは絶対に避けなくてはいけない。なら、どうする?直感で賭けるか、それとも相手の表情を読んでやるか…当然後者だろう、そっちのほうが100%かてるからな。しかし、こいつからは特にこれを出すという表情が見れないな。おかしい、人間は必ずどこかに見える表情というものがあるがこいつには一切そう言った感情がない。なら…本能でチョキをだすしかないのか。

「そろそろ決まりましたかね。決めてもらわないとこっちも予定があるので。」

 --舐めやがって、まさかこいつには俺がチョキを出すとわかって言っているのか。落ち着け、そういう事ならこっちはパーを出せばいい。そうだ、何も怖くない。相手がチョキを出すとわかっていてグーを出せばパーを出しているこっちの勝ち、そう。簡単なことだ。

「ああ…良いぜ。お前が吠えずらを書くのが楽しみだ。」

「じゃあ、行きますよ。じゃーんけんぽん。」

 そう、ためらわずに勝利を確信しながらパーを出した、元春は驚愕した。

「なっ…」

 そこには済ました表情でチョキを出している翔の姿があった。

「な、なぁにぃぃぃいぃぃぃ!?」

「俺の挑発に乗ってしまったなぁ…林さんよ。」

 翔はこの勝負が始まる前から確信していた。

「お前が最初、俺の表情を見て何を出すのかを決めていた。だが、俺はあえてそう来るだろうと予測したうえで感情を出さなかった。そして、お前は混乱し本能でチョキを出すと決めた。そして、俺のあおりのような言葉に再度考えさせられ俺がグーを出すことになると確信したお前はパーを出した。そこまで俺が考えているということにさえ気づいていれば確実にお前はグーではなくチョキを出していた。これが、お前の敗因だ。」

 ーーすべて…読まれていたのか。この俺が読まされ、動かされ…完敗だな。

「さてと、それじゃあ敗者は敗者らしく勝者の言うことを聞かないといけませんね。」

「やつに謝ればいいんだろう。それくらいー」

「何言っているんだ?俺が賭けたものとは違うじゃないか。」

「なに?」

 --こいつ、何を言っているんだ?

「言ったじゃないですか。賭けるのはお互いの存在価値ってね。つまり、あなたにはここで全部のポイントを支払ってもらいます。」

 --バカな…そんなの約束と違うじゃないか。

「存在価値の言葉の重さが分かっていないようですね。残念です。存在というのは利用できる物質の中でも最高位に値するものです。それは人であり、神であれと何でも構いません。」

 翔は不敵な笑みを浮かべ、林の方へと近づいた。

「お前さ、俺が賭けたものの意味を分かってから承諾をしような。」

 翔はそのまま林の端末を取り出し、ポイント輸送をした。

「ラッキー、ポイント7万もある。これならだいぶ楽に行けるな。それじゃあ、林さん、お疲れさまでした。」

 翔は敗北により崩れ落ちた林を背に、部屋へと戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る