ようこそ戦争主義の学園へ
芳香サクト
プロローグ『トリセツ』
ここは全国のトップクラスの連中が集まっている高校『夢遊学園』。国が100%支援、援護をしている学園だ。ある者は学力でナンバーワンを取り、あるものはスポーツ界の期待の星ともいわれている。そんな中、この学園に入ってきた一人の少年、緑橋翔もまたある種にかけての天才と言われている。それがゲームだ。
「ゲームなら俺は絶対に負けない。」とこう周囲に言い放ち、来る挑戦者を打ちのめしている。あるときには完全にチーターとの闘いでも彼は負けない。また、100人が同時に彼に勝負を挑んでも勝てない。一種の都市伝説となり、彼の存在はゲーム業界では知らないものなどいない。そのアカウント名は常に『MASTER』という所から他のプレイヤーにはマスターと呼ばれることが多い。
「さて、この高校では俺に勝てる奴は現れるのかな?楽しみだ。」
彼は、にやりと笑うと校門をくぐった。
◆
去年
「あーもーなんで俺がこんな目に合わないといけないんだよ。くそっ、絶対に許さないからな。」
一人の少年がパソコンに向かってカタカタと忙しそうに打っている。
「おにい……がん……ばれぇ」
後ろから少女の声がする、少年は振り返って少女に文句を言った。
「っていうか、これあんたのアカウントですよね。なんでそれを俺がやらないといけないんですか?それに俺、今年受験生だからゲームはしないって決めていたのに…」
「でも……やっている。」
「あんたからお願いされたからね。でも、好き好んで2キャラ操作とかはしませんよ。」
少年はぶつぶつと文句を言いながらもゲームを進めている。
「誰も2キャラ操作をしてくれとはお願いしていない……私がお願いしたのは私のキャラを育てること…翔のキャラを育てろとは言ってない…」
「だって、あんたのキャラ弱いんだもん。それに自分のキャラ使ってないと感覚が狂いそうで…」
そう呟き、少年はカタカタとキーボードを忙しそうにたたく。
「とりあえず、レベルカンストしましたけど…これからどうするって寝てるし。」
少年が振り向くと少女はすやすやと寝息を立てている。
「ん……おにいお疲れぇ。何か飲む?」
「あ、じゃぁコーラを。」
少年は少女からコーラを受け取るとぐいと一気飲みをした。
「なぁ…お前は今日も学校には行かないのな。」
「うん…」
それから2人は仮眠をとるために布団にもぐった。
兄の翔。17歳・学生・童貞・非モテ・ゲーム廃人。
妹の愛。12歳・不登校・引きこもり・コミュニケーション障害・友達無し・ゲーム廃人。
マスターというアカウント名は兄の翔が作ったもので、愛はそれに乗っかり、時に愛がプレイすることもある。
◆
そして現在、翔は1-D組にいた。
「わが、夢遊学園では文武両道を常に心がげており、クラスはそれに見合ったクラス分けを行っておる。3年間クラスが変わることは無い。そしてこの学校は全寮制だ。お前たちは卒業までこの敷地内から出ることは決してできない。連絡は学校側から支給されるこの端末で行ってもらう。買い物もこの端末で出来る。お前たちには入学金祝いとして10万が支給されている。受け取れ。」
先生の言葉に生徒たちは頷き、端末を手に取った。そこには
『緑橋翔。ポイント10万』と記されていた。
「今見てもらった通り、そのポイントが通貨として扱われる。ちなみにそのポイントは月に支給されるが、その前にポイントが0になったやつは退場。つまりは退学としてみなされる。ポイントの支給は学力の成績で行われる。当然だが、赤点を取った時点でそいつは退学となる。変更は認めない。では、解散。」
先生はそれだけを言うと教室を出て行った。
クラスは早速、新しい友達を作ろうと励んでいる奴でにぎわっていた。
「はぁ…一体、俺はどうすればいいんだ…」
そんな中、翔は妹の愛が心配でしょうがない。翔たちの家計は両親はすでに他界しており、一昨年今まで翔と愛を見てきてくれたばあちゃんが亡くなった。つまりは家に愛一人おいて3年間生活をしなくてはいけない。
「もう…ゲーム、やめようかな…」
と、翔がつぶやくとそれに反応した1人の女子生徒がいた。
「なら、やめれば?」
その言葉は翔にひどくのしかかった。
「心外だな。俺が辞めたいといったのはただのつぶやきであって本心ではない。それに俺が辞めたいといったのはゲームだ。決して学校とは言っていないぞ。それにこの学校は良いところじゃないか。」
「あら、私はゲームをやめろとは言っていないのだけれど…」
「はぁ…それで、あなたは何が言いたいのさ。」
翔はため息交じりに聞いた。
「そうね。一つ言うなら、間違いなくこの学園には何かがあるわ。」
少女はカバンを手に取り、教室を出て行った。
「なんなんだ…あいつは…」
翔はまだ盛り上がっている教室を背に寮へと足を踏み入れた。
◆
「ここが…俺の部屋か。特にいつもと変わっていないように見えるのは気のせいだよな。」
翔の部屋には夕方買って来たパソコンがすでに立ち位置を示している。
「さてと、ネトゲをして、寝よう。」
嫌なことは特になかったが、気に障るような言い方をされたので翔はやみくもにゲームを始めた。すると
『コンコンコン』
ノックが鳴った。
「ったく、誰だよ。俺がゲームしているのに邪魔をしやがって。」
翔はぶっきらぼうにドアを開けると…そこには昼間の少女がいた。
「入ってもいいかしら。」
少女は半ば強引に翔の部屋へと入った。
「で、お前さんがここに来た理由は?」
翔は呆れたように聞いた。
「とりあえず、何か飲み物をくれないかしら。あなたの部屋に来るのに少し体力を使ってしまったらしいわ。」
「分かったよ、用意するから待ってろ。コーヒーでいいよな。」
「ええ、異論はないわ。」
上から目線の口調に翔は再び呆れながらもコーヒーを淹れた。
「それで、コーヒーも淹れたことだし用件を聞こうか。」
少女はコーヒーを一口飲むと
「甘い…コーヒーなのに…」
「当たり前だ、それは俺が自分で作ったコーヒーだからな。」
少女は驚いたが、目の輝きを変え、翔に詰め寄った。
「単刀直入に言うわ。あなた、この学園で一番になりたいとは思わない?」
翔はこの言葉の意味を理解できていなかった。
「どういう意味だよ。一番になりたいって…なりたいと思ったらなりたいけど…」
少女はゆっくりと立ち上がり、出口へと歩き出した。
「もし…本当に一番になりたいのなら明日、返事を聞かせてくれるかしら。」
少女はそう言い、部屋を後にした。
そして、翔は彼女に名前を聞くのを忘れていたのを思い出した。
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