第4話  ワルモノは許さない! 後編


先ほどお迎えに来た兵士さんよって、私連行中。

大人しく付いていってるので、さっきみたいに脇を固められたりはしていませんが、人生最大の大ピンチです!


さっきまで職場で仕事に勤しんでいた私は、なぜ監禁の憂き目にあってるんでしょう?

あまりの急展開に頭が追い付きません。



「返事をせずに、今から話すことを聞いてくれ。顔もこちらに向けないで」



前を先導する兵士さんが囁くように言いました。

返事をするな、顔も向けるなってどういう事なんでしょう。

実は女性ギライ、とか?

まぁ言われた通りにしますが。



「この屋敷の者達の多くは君たちの味方だ。このおぞましい程の悪事だが、一部の者と領主様の仕業なのだ」



すると、あなたも味方なんですか?

だったら今すぐここから逃がしてくださいよ。



「僕たちはみな家族を人質に取られている。だから表立って助ける事はできない。その代わり、回りくどい手段になるけど手は打ってあるんだ」



むぅ、人質ですか。

それなら仕方ありませんが、こっちも気長に待てないのですよ。



「先日、大公様に窮状を訴える書状を密かに送ったんだ。あのお方はかつて『五指賢王』と呼ばれる程に聡明で、領民想いのお方だ。きっと力になってくださるだろう」



なんか凄そうな名前が出てきましたね。

タイコーさんですか?

お願いします、早いとこ乙女の危機を救ってください。



「近日中にはきっと何かが起こる、だから早まった真似だけはしないようにしてくれ」



兵士さんはそう言って、重厚な木のドアを開けて、私を中に追いやりました。

中は寝室のようで、半裸の領主がそこに居ました。


ゲェッ、きったねえ!

もう領主としての体裁も無いのか、いきなり掴みかかってきました。

でも大丈夫。

さすが私、ギリ回避!



「グヒヒ、今回の娘は活きが良い。体つきもワシ好みだ。本当にちゃんと育ってるか、これからジックリと調べてやろう」



ゾワゾワゾワッ。

足の先から髪の毛の先まで鳥肌が。

無理ィ、生理的に無理ィィー!

こちとらこんな事の為に育ったんじゃねーですよ!


乙女の貞操ってのはメチャクチャ高くつくんですからね。

まぁ私のは、他の人より多少お手頃かもしんないけど……。

それでも決して安いものではないんです!



こうなったら女の意地ですよ!

逃げて逃げて逃げまくって、助けが来るまで粘ってやります。

貧乏で散歩ばかりしてるアリシアさんの足腰を舐めんじゃないですよー!



……不覚です。

あっという間に部屋の角に追い詰められました。

なんでコイツは体捌きがこんなに上手いんでしょうか。

あれは完全に人間をやめた人の動きですよ!

一体関節が何個あるっていうんですか!



「グッヘッヘ、もう終わりか? 逃げないとどうなるかわからんのか? んんー?」



ギャァァー手ぇ滑ってるし口くっさい!

こっちくんなよオラァァアアーッ!

ただ今両足を駆使しておっさんを絶賛撃退中!

命がけで白ブタと鍔迫り合い真っ只中です!


でもこのままじゃジリ貧です!

誰か、誰か助けて!

それか手頃な鈍器をくださいー!

この場を切り抜ける力を……

力をくださいっ!


祈りなんて誰にも届かない。

私も大人ですから、そんな事は分かりきってます。

どんなに嫌でも、願っても、現実は変わらない。

こうして私は、私は……。



ーーニンゲンの娘よ、力が欲しいのか?



聞き間違いでしょうか。

空耳か何かでしょうか。

誰かの声が聞こえたような気がします。

ここには私以外にブタしか居ませんが。



ーー聞こえるか、ニンゲンの娘よ。力が欲しくはないか?



やっぱり誰かの声が聞こえます。

見えてるなら助けてくださいよ!



ーーなんだ。力が欲しい訳ではないのか。では大人しく立ち去るとしよう。



すいません、超欲しいですほんと。

今すぐ大人買いしたいくらい。



ーー貴様ごときに我が力を扱えるかは判らん。見事乗りこなしてみせよ。



その時です。

私の体がドス黒い霧に覆われ始めました。

それはまるで、幼き頃の失敗談を思い出す心境のようで……。

いや、考えるのはやめておきましょう。


というか何でしょうか。

体の底からすっげー力が溢れてきます。

今なら誰にも負ける気がしないですコレ。



「よいしょっと」

「ぐはっ!」



調子に乗ってるジジイを壁に吹っ飛ばしてやりました。

いつまでも乙女にのし掛かろうだなんて許されませんからね。

あれ、今ので死んだ?

ここで死なれると消化不良なんですが、もう少しはいたぶりたい……あ、生きてた。



「なんだ貴様! その異様な力はどうした事か!?」

「悪事に手を染める者に正義の刃を」

「え?」

「弱者をいたぶる者に神の鉄槌を」

「ええ?」

「愛と情熱の戦士、魔法少女アリシア。見・参!(キラッ)」

「えぇ……」



フフフ、度肝を抜かれてますね。

口をあんぐりさせて固まってますよ。

何せ今の私は最強の魔法少女。

か弱い町娘の面影は何処へやら、ですからね。



「ワルモノめ、覚悟しなさい! 魔法少女アリシアがやっつけてやるから(キラキラッ)」

「その年齢で魔法少女を語るには無理が」

「お喋りはそこまで! いでよ、ホーリィスタッフ!」

「それワシの羽ペン」

「さぁ。愛と情熱の力で、骨まで灰にしてあげるわ(ハァト)」

「クッ、さっきから一体なんなんだ。読みにくそうな語尾をしおって!」



何を語尾だの意味不明なことを言ってるんですか。

追い詰められて錯乱してるんでしょうかね。

何にせよ、裁きに手心を加える気はありません。

ーーこんな外道に、情けは要らない。



「食らいなさい(ピカーン)。スタァダスト・スプラッシュ!(キラリン)」



ドンッッ!!

GYAooOOOON!!


あれぇ?

なんか凛々しい火龍が大暴れしてません?

スターダストスプラッシュってもっと可愛くって、もっとこう……。



「もっとこう……。あれ、なんだっけ?」



そして私はなんでペンなんか持ってるんでしたっけ?

そしてのそしてマイポッケ。

変な音が聞こえるなと思ったら、マジックアイテムがめっちゃ輝いてました。

火龍に反応して光り、そしてみるみる灰になっていってます。

ひょっとしてこの惨事も膨大な魔術道具のせいなんでしょうか?


と、とにかくこのままじゃ危ないです。

みんなに知らせてとっとと逃げるですよ!


その後、兵士さんの誘導もあって全員無事に逃げられました。

領主様の事も探したそうですが、真っ先に火龍にパックンチョされてましたからね。

今ごろは骨まで灰になっていると思います。


火龍さんはゴキゲンに館を破壊し尽くして、結局何もかもが無くなっちゃいました。

それをただボーゼンと眺める私たち。

このあと私は捕まっちゃう……なんてことはないですよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る