三話 副会長の正体
翌日、俺は朝ごはんをいつもの倍近くのペースで平らげていた。というのも、あの生徒会長の顔を歪ました副会長のところへ行くのに当たって、やはり平常心ではいられなかったからだ。起床のタイミングもいつもより随分と早かったし、その割には目もぱっちりと開いていた。
時間が経っていくにつれ、その不安も膨らんでいく。なので、一度深呼吸をし、いつもより早い時間帯に家を出た。学校に着くまでの二十分ぐらいの時間が、二分程度に感じられた。今更言うのもおかしいが、相当神経質で、安全な道を行こうとする俺は、普段から面倒なことに口を出さない、など、いくつか自分の中で避けていることなどがある。
もしかすると、その神経質さが、あの中学生の時の物知りぶった態度に導いたのかもしれないが。
「今から約七時間……」
思わず口につぶやいてしまった。今が八時、副会長に会う想定時間は、午後三時ぐらいだろう。
「どんだけ緊張してんだ、俺」、心の中で自問する。
「おはよーー。クルア。」
おっ。誰かと思ったらツバキか。
「よ、ツバキ。」
「どうしたの?あんた、顔色めちゃくちゃ悪いわよ。」
副会長が怖いから、という答えの代わりに、それについては聞かなくてもわかるだろ。という視線を向ける。案の定ツバキも、
「あんた、何ビビってんの。しっかりしなさい。男なんだから。」
「な……び、びびってねえよ!?」
そうだよ。めちゃくちゃ怖えよ。……なんて言えるはずもないし、大体女に男がビビってるとか、しっかりしなさいとか言われんのが一番恥ずいんだよ。そう心のなかで叫ぶ。
「まあいいわ。それにしても、今日は午後から雨らしいよ。さっき聞いたんだけど、私、傘持ってなくてさ、どうしよっかなと思って。」
「なに!?雨だと。くそおお、俺も傘持ってきてねえ。」
それより、今日の副会長との対面のときに雨とか、なんか今から不吉なことが起こりそうでならないんだが。
「あ、でも夕方の四時ぐらいには止むらしいよ。」
「それはよかった……」
……って、全然良く無い。副会長との対面後には止むとか、ますます怖いじゃねえか。
△ ▼ △ ▼
その後は、五分に一回、午後の事を思い出しながら、大きなため息をついた。ということ以外は順調に時間が経過していき、気づくともう五時間目のチャイムがなっていた。時折、予報通り降り出した雨を眺めて、心までも雨模様になっていた。
そのうち、三時からのビックイベントを考え続けるのも面倒になってきて、とうとうひたすらぼーーーっとしていて、またも、気づくとホームルームが終わり、時間は三時前になっていた。
「クルア。今から副会長と話するの?」
「おう、ツバキ、いたのか。」
「またあんた顔色ひどくなってるよ。妖怪みたい。」
「最後の一言はいらんだろ。」
全く。妖怪って何だよ、妖怪って。
「じゃあ、あたしは先に帰ってる。ばいばいー」
「おう、また明日。」
俺はそう言うと、そのまま廊下を歩き出し、生徒会室へと足を運ぶ。
「ここかあ。」
生徒会室に着いた俺は、最後に深呼吸を一回済ませ、扉をゆっくりと叩き、
「失礼します。二年二組の神谷です。」
そう言ってドアを開く。
……が、中に人の気配を感じることができない。
「失礼しまーす。」
念入りに震えた声でもう一度つぶやき中に入ろうとするその瞬間、俺の足が止まった。 正確には、止められたというべきか。原因は背後からの視線である。後ろに顔を向けようとして、顔をひねりだす。しかし、その動作とほとんど同じのタイミングで、
「はじめまして。」
女性の声がした。それも今振り返ろうとしていた背後から。
緊迫した空気の中、その声を聞いた俺は、思わず、
「ぎゃあああああああああ。」
……叫んでしまった。
数秒ほど経って我に返った俺は、落ち着きを取り戻すと、すぐに状況の把握を終え、とんでもなく失礼なことをしてしまったと自覚し、後ろを振り返る。
「はあ?」
思わず声が出てしまった。振り返った先にいたのは小学生ほどに見える女の子だった。 髪はショート、少し大きめの目、ランドセルがよく似合いそうな、可愛らしい子だ。
「あの……クルアさん、ですよね?」
俺が叫んでしまった事によって作り出されてしまった最悪な空気を先に破ったのは、その少女だった。
「なんで俺の名前を……」
「私、生徒副会長の渡辺です。あなたをここへお呼びしました。」
はい!?正直理解が追いついていない俺は、状況整理に数秒の時間を費やした。
「あなたが副会長ですか。」
驚きが混じった言葉でようやく口が開けた。事実、俺が動揺しているのは、副会長に叫んでしまって失礼な態度を取ってしまった、と言うより、あんなに一日中ビビリまくっていた相手が、とても可愛らしい容姿だったということの恥ずかしさによるものだ。
「そうです。私が副会長ですが、今から少々お時間、いただけますか。」
「それは、もちろんいいですけど、どこで話します?」
「では、喫茶店はどうでしょうか。」
「それはできません。ごめんなさい。」
さすがの俺も、周りからロリコンだという扱いを受けるのには抵抗があるからな。喫茶店なんて、無理すぎる。どこかいい場所……
「あっ。」
「どこかいい場所、見つかりましたか?」
俺の声に反応した彼女に、一度頷いて、
「俺の家はどうですか?」
そう、真顔で提案した。
文学高校生とネットゲーム Lubred @lubred
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