一章
1話 生徒会長に拉致られる
「では怜君。この問題の答えは何かな。」
「はい。それはこの慣性の法則に基づきまして、答えはこうなります。」
すらすらと黒板に書かれて行く文字たち。みんな目を丸くしながら黒板に注目し、その心地よいほどにスラスラと出てくる彼、怜の口元を見て、開いた口を塞げない。どうしてこんなにスラスラと答えを出し、難しい言葉で説明出来るのか。それが不思議でならないのだろう。だが……
俺、神谷来亜はその中でたった一人、ぼうっと見ている。なんの関心もない。
何故かって聞かれると言いたくはないが、俺の中学校時代とよく似ているからかな。いわゆる文学的青年というやつか。答えを知っていることを周りに知ってもらうより、その過程の説明をあえて難しく言う、つまるところ、カッコつけとほぼイコールの関係になるというわけだ。
中学三年生の頃、今で身長が百七十八センチ、体重が六十五キロの体型になったのだが、当時は百七十五センチの、五十キロジャストの体重、まあガリと言えるスペックの体型だった俺は、大して良くもないルックスを無駄にかっこいいと認識していて、更には文学青年になりきっていた。先生からの出題にわざわざカッコつけていちいち長ったらしく解説し、周りの目線をうかがうのが授業の楽しみだったと言えた。
「ああ、恥ずかしい……。」
「なにブツブツ一言ってんの?クルヤ。」
えああっ。びっくりした。思わず口に出ていた言葉を聞かれていたのか。幼馴染に…… そう、こいつは幼馴染の中野椿ナカノツバキ。小学校の頃から一緒にいる。
「いやあ、ちょっと独り言。」
「そ。分かったわ。それにしても怜って子さあ、昔のあんたにそっくりね。」
「それは言わないで……」
昔の俺のこと言われるとかマジ勘弁。一番辛いから。っていうか、
「もう授業終わってたの?」
「はあ?ちょっとクルア、大丈夫?ついさっき終わったじゃない。」
「え、ああ、そうだったそうだった。」
適当な返事を返す。昔のことを考えている間に授業が終わったのか。全く、何でチャイムとか鳴らねえんだろうな。ちなみにこの学校では、生徒の自主性とやらを育成するため、ノーチャイムという制度が採用されている。
「全く。それよりお昼どうする?」
おっと、もうそんな時間か。あんまりお腹減らないタイプの俺からすると随時時計を確認しているわけでも、ましてや腹時計なるものなんてあるはずがない。つまり、昼食をとる時間帯を全く把握しきれていない。
「どこで食うのがツバキ的にベスト?」
「あたしは……屋上!!」
うわあ、こいつ、張り切って何言いやがってんだ!?
「あんなところに行くなんて自殺行為にも程があるって。先生に見つかったら一発でこうだぞ。」
そう言いながら首に手を当てて見せ、ゆっくりとスライドさせる。
「退学はいやあああ」
案の定、ツバキは叫んだ。こいつにとって一番キライな言葉は退学だからな。
「じゃ、まあ、いつものあそこでいいよな。」
「そうね。」
いつものあそことは、小学生風に言えば秘密基地と呼べる場所である。昔から一緒に昼食をともにしているため、そういったことの大体は意思疎通で会話される。校庭の端っこに、小さな小屋のようなものがある。学校ができて約五十年という、長くも短くもない歴史があるこの山童高校では、そのような今では使われていない所が珍しくもない。
俺達はその小屋の裏に着くと、早速昼食を取り出し、膝の上に広げる。両親は田舎にいて、二歳下の妹と二人暮らししている俺は、いつも妹に弁当を作ってやっている。そのついでに自分の分の弁当も作っている。
「ねえ、クルヤ。そういえばさあ、最近ハマってることとかないの?」
「そだなあ。特にない!」
「あんたって人間は何でそんなに虚しいのかしら。」
「虚しいってお前!」
「おい。」
「へっ」
何だ今の声。思わずへって言っちまったじゃねえか。「おい」という声がした方向に顔を向けてみる。
「せ、生徒会長!!」
俺の目が捉える前にツバキの目がそれを捉えたらしい。どうやら、生徒会長が俺たちの方を見ている様子だ。髪は長髪の金髪、それなりに身だしなみを整えた格好をしている。そして誰が見ても美しいとしか言えない顔。その容姿のお陰で、学校中の男子から憧れを持たれている。(ちなみにツバキもショートな髪と、豊富に育った胸でさわやか系女子としてそこそこモテている)
って言うか……
「何で生徒会長がここに!?」
単純な疑問だ。どうして生徒会長がここにいるのだ。
「ちょっとお前に用があってな。今からちょっと来てもらう。神谷来亜。」
「ちょっ、何なんですか、いきなり。」
「いいから来い。」
力ずくで俺の抵抗は阻止され、会長につれていかれる。ああ、何でこうなった!?
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