1D1 経験
ヴェルンは様々なことに取り組んだ。店に来る冒険者から様々な冒険譚を聞いてはただ冒険に憧れるのではなく、そこから学ぶべき教訓を知り、様々な武器を扱う技術、魔法について教えを請うた。
商品を仕入れに行くという父に同行して、回復薬を作る薬師や錬金術師と知り合えば、冒険者の時と同様教えを請い、時には見学をして目で盗み、恐ろしい速度で学び取った。
結果、ヴェルンは5歳を目前にして、ありえないほどの知識量と戦闘技術を有していた。
ヴェルン・アンバー
4歳
生まれ:商人
職業:商人Lv4,剣士Lv1,戦士Lv1,軽戦士Lv1,拳闘士Lv2,斥候Lv1,魔導士Lv1,錬金術師Lv2,薬師Lv2,学者Lv5
器用:14(1000)
敏捷:12(1000)
筋力:18(1000)
容姿:30
知力:1000
生命力:19(1000)
精神力:1000
HP:38(1000),MP:1003
特徴:「同種族魅了」「協調種族魅了」「思考加速」「多重思考」「精神耐性」「魔法耐性」「魔力回復速度上昇」「頑強」「自然回復力上昇」「信頼」
技能(常時):「交渉」「値切り」「斬撃強化」「打撃強化」「魔力制御」「生産成功率上昇」「軽快」「解読」
技能(能動):「鑑定眼」「忍び足」
◆―――――――――――◆
ハザールは暑い季節を迎え、その熱気に対抗するように人々は活気に満ちていた。今日は開放市という催しものがある日なので、ひと際人の出入りが激しい。
開放市というのは、簡単に言うとこの日に限り指定された場所の中ならば、本来商売に必要な許可証を持っていない人でも商売を行っても良いというものだ。
もちろん禁制品などは持ち込むだけで処刑ものだが、一般的なもの、古着や軽食、不要になった家財道具などを、商店を挟まずに直接現金化できる。
特に冒険者が出す露店は時折掘り出し物が見つかる事もあるらしく、父さんはもちろん毎年様々な場所から商人が集まってくる。
一種のお祭りと化した街の一角。僕はそこに今日初めて足を踏み入れることになった。
事の発端は父さんだった。毎年なにかと理由を付けて僕を連れていくことを拒んでいた父さんが、唐突に「今年は一緒に開放市へ行ってみるかい?」なんて自分から言い出したのだ。
急な心変わりにどうしたのかと思ったが、どうやら父さんは初めから僕が5歳になったら連れて行こうと思っていたらしい。
正確に言えば僕はまだ4歳と9か月で、誕生日はもう少し先になるが、わざわざいう事でもないため黙っている。
どうせなら「母さんも一緒に」と言ってみれば、これも問題なく許可が出た。
開放市が待ち遠しくて、なかなか寝付けず父さんや母さんに開放市について聞いていたら「早く寝なさい」と叱られてしまった。とはいえ二人の顔は笑顔(苦笑?)だったので、イヤな気持にはならなかった。
そうして、開放市が開催される多目的広場へ到着すれば、すでにそこは多くの人が集まっていた。
露天商たちが威勢よく声を張り上げ、楽しそうに話をしながら露店を覗く男女、露天商と熱い価格交渉に乗り出す客たちと、雑多な喧騒が生まれている。
物珍しさにキョロキョロと周囲を見渡して、どんな品物が置いてあるのかを確認する。知識にあるもの、全く知らないもの、明らかにゴミのようなものまで様々だ。
家族三人で歩いていると、時折父さんが吸い寄せられるように露店へと向かってしまうので、そのたびに僕と母さんは苦笑いしながらそのあとを追うことになった。
あちこちを回る。冒険者がどこかで見つけたという戦利品の数々。流れの商人が持ち込んだ奇妙な一品。なんらかの理由で売り出すことになった先祖伝来の宝などを父さんに説明されながらたくさん見て回った。
そうしてしばらく市を見ていたその時だ。唐突にゾクリと背筋に怖気のような冷たい感覚が走った。
僕は思わず周囲を見渡し、冷たい感覚の正体を探す。どこを見ても人だらけ、今の感覚が一体何なのかわからない。それがとても不安で、怖かった。
「どうしたの?」
気づけば母さんが心配そうに僕を見ていた。僕は今感じた事を素直に話そうとして…考えてしまった。せっかく珍しく家族三人で楽しく過ごしているのに、水を差すようなことを言ってしまっていいのだろうか。
そんな風に考えて「友達がいたような気がしたんだ」と母さんに嘘を吐いた。
(大丈夫、何もない。もし何かあっても…僕なら平気だ。本気を出せば大人にだって負けない)
確信にも似た感情で、僕は先ほどまで感じていた恐怖を忘れた。
◆―――――――――◆
夕暮れ時、開放市も終わりが近づき、ところどころで店じまいの準備が始まる。最後の最後に儲けを出そうと客引き、値引き合戦がそこかしこで勃発し、本日最後の賑わいが起こる。
毎年参加しているパトリックは慣れたもので、慌てることなく道の端へと移動する。だが普段は市に参加しない妻は突然起こった人の波に対応できなかった。
パトリックは妻フューリーに声をかけるが喧噪に呑まれて声が届かない。慌てて手を掴んで引き寄せるが、彼女と手をつないでいたはずの息子の姿はそこにはなかった。
「「ヴェルンっ!!」」
夫妻が同時に声を上げ、息子の名を呼ぶ。
しかし、その声に反応はなく、周囲を探せどヴェルンの姿はどこにもなかった。
◆―――――――――◆
僕は一瞬、自分の身に何が起きたのかわからなかった。唐突に起こった人の波に押し流されそうになったが、そこは慌てず、落ち着いて移動してから父さんと合流するつもりだった。
けど気づけば僕は母さんと繋いでいた手とは反対の手を、誰かに掴まれて引き離され、口に何か押し込まれたと思えば、あっという間に手足を拘束され、そのまま麻袋のようなものを頭からかぶせられて何者かに担ぎ上げられる。
それからしばらくバタバタと走ったかと思えば、今度は木製の床のような場所に転がされて、馬の嘶く声とともにガタンガタンと床が振動し始めた。
すぐにそれが「人攫い」と呼ばれる犯罪者の犯行で、馬車に乗せられたのだと気づいた。だから僕は慌てて拘束に使われた縄を引きちぎろうと力を込める。
瞬間、全身にズキリと鋭い痛みが走った。神経を直接傷つけられたかのような痛みに声も出せずに体を硬直させ、徐々に痛みが引いていくのを感じながら思考を巡らせる。
原因はこの拘束の仕方だ。視界を塞がれているため、具体的にどういう風になっているのかはわからないが、僕が力を入れれば拘束がキツくなるようになっているみたいだ。腕に力を込めれば肩と首のあたりがギチギチと締め上げられる。足に力を込めても同様だ。それを我慢して無理矢理引き千切ろうと力を込めるが、途中で勝手に力が抜けてしまう。
最悪だった。
どうにかなると思っていた。どうにでもできると自惚れていた。どうにもできないとわかって、この先自分がどうなるかもわからない状況に涙が出た。
しばらく泣いた後、急速に思考がはっきりしだした。未だ恐怖は感じているし、拘束も解けない。犯人は最初から一言も声を発さず、人数も足音などから二人以上だということ以外わからない。どこに向かっているのか、どういう意図があって僕を攫ったのか、それすらわからない状況で、それでも僕は考えることができるようになった。
冷静になると少しずつ周囲の情報が入ってくるようになった。まず人々の喧騒が聞こえる。麻袋がかぶせられているせいでくぐもってはいるが、まだこの馬車が街の中に居るという事だ。馬車の速度も速くない。これも街中にいるから速度が出せないのだと判断できる。
ハザールの街は広いから、馬が歩くような速度なら、もし街の外へ出るとしてもそれなりに時間がかかるだろう。時間の猶予はまだある。
僕のすぐそばに人の気配を感じる。おそらく僕を馬車まで運んだ人物だろう。もうひとりは御者をしていると思われる。
犯人たちは一言もしゃべらない。馬車は一定の速度で進み続ける。人気のないほうへ向かっているのか、徐々に喧騒が遠のいていくのがわかった。
移動し続けてどの程度経っただろうか。速度を落とし始めた馬車がついに停止した。
僕は再び抱えられて、どこかへ連れていかれる。ドアを開ける音と三人分の足音。僕を抱えているのは男のようだ。建物に入ったという事は、街の外には出なかったらしい。
ドアを開けて少し歩くと、途中から足音が硬質なものへと変化する。今度は階段を降り始めた。最初は民家のような場所かと思ったが、移動距離が予想以上に長い。こんなものを用意できるような組織ぐるみの犯行だという事だろうか。
だとすれば人数はかなりの規模になるのではないだろうか。自分の予想がどれだけ甘いものだったのか、改めて思い知らされる。
あまりの事に再び涙が流れそうになる。喉元まで吐き気が上がってくる。
そんなときだった。再びドアを開けたと思った瞬間、僕の身体は乱暴に放り投げられた。
「…っ?!」
受け身も取れず硬質な地面に叩きつけられたことで強制的に息が吐き出され、息苦しさに悶える。
そのままドアが閉められ、遠ざかっていく足音。最後には静寂だけが残った。誰の気配もない事がわかると、少しだけ体の力を抜いた。
さて…
どうして僕は捕まっているのだろう?
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