運命の相手① 一番幸せになれる人
◆ 川波小暮 ◆
「家族ぐるみの付き合いって、意外とメンドーだよね」
暁月はオレの膝の上で、ゲームをしながら言った。
「親って歩くアルバムみたいなもんじゃん。本人の知られたくないことまでペラペラ喋っちゃってさ」
胸の中に収まった暁月の小柄な身体は、風呂上がりでぽかぽかと温かい。めっきり寒くなった今にはうってつけの湯たんぽだったが、寝間着の緩い襟元から覗く胸元が、目に毒で仕方がなかった。
「あー」
オレは誤魔化すように相槌を打ちつつ、
「あんまピンと来ねーけどな、オレの場合……。歩くアルバムどころか、歩く黒歴史みたいな奴がいるもんでよ」
「誰が黒歴史だっ!」
抗議しながら、暁月はぐりぐりと後頭部をオレの顎に擦り付けてくる。どうしようもなく鼻腔を満たすシャンプーの香りから逃れつつ、
「なんで急にそんな話をし始めたんだ?」
「んー? いや、友達にね、彼氏に親紹介したって子がいてさ」
「うわ、重っ……」
「はっきり言ってやんなよ! あたしもそう思ったけどさ!」
「もし別れて新しい彼氏作ったら、そのときはどうすんだよ。また紹介すんの?」
「『前の人より優しそうね』とか言われちゃったりして」
「うげあー! 最悪だわ……」
想像するだに恐ろしいぜ。彼氏のほうはどういう顔をすりゃいいんだ?
暁月はオレの顔に振り返って、
「あたしらは良かったよね。親に言わなくて」
「それだけは褒めてやりたいね。当時のオレたちをな」
「ホントそれ!」
オレたちは笑う。そのせいで未だに『アンタまだ暁月ちゃんと付き合ってないの?』とか言われちまうのが玉に瑕だが。
暁月はオレの胸に背中をもたせかけながら、
「まあ、付き合ってる間はわかんないもんだよ。いつか別れるときが来るなんてさ」
「……それがわかってたら、最初から付き合ったりしねーだろ」
「それもそうかぁ。……世の中のカップルが、みんな結婚できたらいいのにねえ」
「結婚しても離婚するかもじゃね」
「世知がらぁー」
男女の仲が唯一で永遠だったのは、もう遠い昔の話。
今時、人生を満たす方法はいくらでもある。尽くしたい誰かが欲しければ推しを作ればいいし、誰かに認められたければ配信者にでもなればいい。
結婚は人生の必須イベントではなくなり、恋愛は一部の人間の趣味でしかなくなった。
ゲームをするのと同じ、死ぬまでの暇潰し――
「――それでも信じられる人が、一番幸せになれるのかもね」
唯一でもなければ永遠でもない。
それを知りながらも――信じられる、誰か。
「……たまにわかった風なこと言うよな、お前」
「あんたはわかんないフリしすぎ」
んひっ、と意地の悪い笑みを浮かべて、暁月はぐりっと、お尻をオレの太腿の根本まで滑らせた。やべっ、そんなに押し付けられたら――
「最初からバレてるよ? スケベ」
「……………………」
オレが無言で目を逸らすと、暁月はそれを捕まえるように振り返り、
「(家族には言えないコト、する……?)」
蠱惑的に、そう囁いた。
答えは決まってる。
「……しねーよ……」
「我慢は良くないよ? こーくん♥」
「しまいには乳揉むぞてめえ!」
「おっ! 大きくしてくれんの? ありがと~♪」
重い女と軽々に付き合うべきじゃない。
それだけは確かだった。
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