湯けむり旅情思春期事件⑧ 信じることはできなくても


◆ 羽場丈児 ◆


「あ? おれの恋愛遍歴?」


 食事後、川波くんの持ってきたゲーム機で、のんびりとゲームに興じているときだった。

 川波くんが画面の中で物件をまとめ買いしながら、そんな話を切り出したのだ。


「っす。星辺さんって、結構モテそうじゃないっすか。彼女とかいたことあんのかなって」

「今いんのかって訊かねぇのかよ」

「いたら亜霜先輩をもっと拒否るでしょー」


 俺は特に目立つこともなく青マスで所持金を増やしながら、内心ヒヤヒヤしていた。

 星辺先輩の恋愛遍歴。

 それは、亜霜さんがあの感じになってる手前、生徒会ではあまり話題にしないことだった。少なくとも、生徒会長になってからは、そういう浮いた話は聞いたことがない――先代の庶務の先輩と付き合ってるんじゃないか、と噂が立ったことはあった――けど、それより前についてはその限りではない。


 部活をしていた頃は、一年生ながらエースと呼べるくらいの選手だったという。

 それでこの長身なんだから、普通に考えてモテないはずはなかった。


「彼女ねぇ……」


 星辺先輩は、貧乏神の攻撃をノーリアクションで喰らいながら、


「中学のときに、いたぜ。一瞬だけだがな」

「へえ~!」


 川波くんは興味深そうに声をあげる。

 もう一人の一年生・伊理戸水斗は、自分のターンを手早く済ませるとまた文庫本を手に取った。初めてやるゲームなのに一瞬でコツを掴んで、今ではこの調子だ。


「どんな子だったんすか? 告白はどっちから?」

「別に普通だったぜ。特別可愛いわけでもブサイクなわけでもない、普通の奴。告白はあっちからだ。部活をしてる姿が好きって言われたんだが……」

「だが?」

「部活ばっかしてたらフラれた」


 川波くんは当惑した顔になった。


「それ、笑ってもいいんすか?」

「いいぜ。気の利いたジョークみてぇだろ?」

「でも、そういうところあるっすよねー、女子って。口で言ってることと本当に望んでることが全然違うっつーか……こっちをテレパシーだと思ってんのかよ! って思っちまうようなところ」

「まあなぁ。普通に考えりゃ、部活に打ち込んでたら放課後遊べねぇのはわかんだろうにな。付き合い始めたら急におれの時間が増えるとでも思ってたのかね」

「女子に限らず、そういう考え不足な奴はいるっすよね。想像力が足りねーっつーか……。その元カノは、結局どうなったんすか?」

「そいつは元々、部活を勝手に見学してたギャラリーの一人だったんだが、それ以来、顔を見なくなったな。気まずくなったのか、おれに幻滅したのか……」

「幻滅したんだとしたら、ずいぶん勝手な話っすねー」


 俺は、顔も名前も知らないその人のことを、自然と想像していた。毎日部活に精を出すカッコいいヒーロー。テレビ越しでもネット越しでもない、最も身近なアイドル。憧れだけど、手を伸ばせば届くかもしれない。その可能性に魅入られて勇気を出し――そしたら、思ったよりあっさり手が届き。


 けど。

 自分の立場は変わらない。


「――愚かですね。背景から出られるって、勘違いしたんだ」


 思わず、ぽつりと呟いていた。

 その人の愚かさ、哀れさに、落ち着いてはいられなくて。


「人にはそれぞれ、弁えるべき分というものがある。勘違いしてその分を越えれば、自分の不足を突きつけられることになるだけです……」


 独り言のようなものだった。誰も聞いていなくても構わなかった。いや、むしろそのつもりで口にした言葉だったかもしれない。

 だけど、星辺先輩は、


「……まあ、違いねぇわなぁ」


 まるで記憶を噛み締めるように、


「だが……あの頃、遠目におれを見て騒いでた女子は何人もいたが……実際に告ってきたのは、あいつだけだった」


 平坦な抑揚で、だからこそ嘘のない言葉を告げた。


「その勇気は、すげぇもんだと思うんだよな、おれは」


 ……確かに、そうかもしれない。

 俺は、愚かになることすらできない、愚か者だから。






◆ 羽場丈児 ◆


〈午後10時、地下1階自動販売機前〉


 一方的に送られてきたメッセージに従い、俺は持ち前の存在感の薄さを使って、こっそりと男子部屋を抜け出した。

 旅館の地下といえばゲームコーナーだけど、夜も遅いからか、筐体がぼんやりと光るばかりで、人の気配は全然しなかった。

 ただ一つ――その横の自動販売機の前に佇む、バニーガールを除いては。


「――――――――」


 は?

 バニーガール……うん。一瞬見間違いかと思ったが、それはどう見てもバニーガールだった。さらに言えば、自動販売機の光に照らされるその顔は、俺のよく知るものだった。

 紅さん……。

 俺を呼び出した、まさに当人だった。学校始まって以来の天才と称され、全校生徒が仰ぎ見るカリスマ生徒会長が、なぜか、際どいバニーガール姿でそこにいるのだった。


 しかも、よりによって後ろ姿だった。前から見たって目のやりどころに困るだろうに、後ろ姿に至っては、白い背中はがら空きで、お尻にはスーツが食い込んで、どこを見たって邪な視線になってしまう。

 紅さんは、背丈も小柄で、胸の大きさも普通だけど、お尻はちょっと大きい。

 たぶん、事あるごとに迫られている、俺くらいしか知らないことだ。骨格のおかげなのか、小柄なのに安産型で、だからボディラインも女性的に見える。

 その紅さんがバニースーツを着るなんて……食い込み気味のスーツと黒いタイツが、綺麗なヒップを扇情的に飾っていて、むしろ後ろ姿のままでいてほしいと思うくらい――


「――――っ!?」


 紅さんと不意に目が合って、心臓が跳ねた。

 ば……バレた? 遠目に背中やお尻を見ていたことが……。

 急速に気まずくなって、この場から逃げ出したくなった。けど、きっとそんなことは最初からお見通しで、紅さんは肩越しにこちらを見たままで言う。


「そんなところでどうしたんだい、ジョー? 早く――近くに来なよ」


 わかってる。やっぱりわかってるんだ、紅さんは。俺のどうしようもない、ふしだらな劣情のことなんて。

 俺は観念して紅さんに近付いていく。近付けば近付くほど、紅さんの白い背中が眩しくなって、誤魔化しようもなくそっぽを向かざるを得なかった。

 紅さんはくつくつと笑う。


「おやおや、どこを見ているんだい? そっちには何もないと思うんだけどね」

「……すみません」

「何に謝っているのか、皆目見当つかないな」


 そう言いながら、紅さんは自販機のボタンを押すと、「よいしょ」と取り出し口に手を伸ばすべく腰を曲げた。そう、お尻を俺に突き出すようにして。

 強烈な吸引力だった。見まい見まいとどれだけ思っても、まるでルアーのように揺れるそのお尻に、視線が吸い寄せられてしまう。スーツから溢れ出したような丸い輪郭、タイツ越しに薄く透けた肌色、近くで見るそれらは、問答無用で俺の獣性を呼び覚ます。


 ダメだ。

 身の程を弁えろ。


 俺の中で首をもたげたケダモノを、殴りつけるようにして抑え込むと、紅さんはようやく上体を起こして、身体ごとこちらに向く。


「どうやら……楽しんでもらえたみたいだね?」


 正面から見る紅さんのバニー姿は、それはそれで破壊的だった。コルセットのように身体に張りついたスーツは、彼女の腰の細さや、胸の膨らみのサイズ感を誤魔化しなしで伝えてくる。しかも、サイズが合っていないのか、胸を覆っているところが少しだけ、肌から浮き上がっているような気がした。


「……なんで、そんな格好をしてるんですか……」

「罰ゲームでね。勝者が敗者にコスプレをさせられるというルールだったんだ。それでこの格好になったんだが、着替えるのが面倒だったんでそのまま来たんだよ」

「……嘘ですね。いま気付きましたが、そこのベンチに浴衣が脱ぎ捨ててあるじゃないですか。バニーの上にそれを着てここまで来たんじゃないですか?」

「ふふ。さすが。目敏いね」


 紅さんは、頭の上の長いウサ耳をひょこひょこと揺らしながらベンチに移動して、脱いだ浴衣を拾い上げた。


「まあ座りたまえ。立ちっぱなしは疲れるだろう」


 拾っただけで、着るつもりはないらしい。

 俺が大人しくベンチに座ると、紅さんは「どうぞ」とさっき買っていた缶ジュースの一本を俺に渡した。このとき、胸元を強調するのも忘れない。胸の生地が少し浮いているから、中が覗けてしまうんじゃないかと緊張したが、幸い、そこはちゃんと計算しているらしかった。

 紅さんは俺の隣に座ると、缶ジュースをカイロのように両手の中で転がしながら、


「この格好になってみたところ、一部女子から非常に好評を得てね。曰く『ケツがエロい』ということらしい」


 誰だ。余計なことを。絶対亜霜さんだろ。


「なるほど、女性の武器は胸だけではなかったかと目から鱗が落ちてね。早速試してみることにしたんだが――」


 紅さんは流し目を送ってきたかと思うと、意識の間隙を突くような素早い動きで俺の肩を掴み、耳元に口を寄せてきた。


「(――子供を産ませたくなったかな?)」


 俺が顔を強張らせると、紅さんは身を離してくつくつと笑った。

 溜め息をつくのを抑えられない。


「……あなたは、どうして俺にだけ、そんなに品がなくなるんですか……」

「どんなに清楚な女の子でも、惚れた男の前でなら多少は下品になるさ。それに、ぼくみたいな成績優秀な女子がエッチなことを言うと興奮するんだろう? 参考文献に書いてあった」

「何度も言いますが、その参考文献は捨ててください」


 本当のことばかり書いてあるから困る。


「あ、ちなみに、子供を産ませるのはせめて高校を卒業してからにしてくれよ。『事前練習』なら、いくらだってしていいけどね?」

「下ネタを嫌うのは女子だけじゃありませんよ」

「普段なら聞く耳を持つところだけど、今日だけはどんなに注意されても響かないな」


 紅さんはくすりとからかうように笑うと、バニースーツの胸元に指を引っかけた。


「いつぶりだろうね、あんなに熱い視線を感じたのは……。自分があれだけ欲情しておいて、ぼくにだけ上品にしろというのは不公平じゃないかな?」

「……ぐ……」


 二の句が継げない。今日ばかりは、紅さんのマウンティングを振り払う方法がなかった。

 紅さんは煽るように、胸元の生地をくいくいと揺らし、


「ちなみにこれね、意外と生地が硬くできていて、胸のところだけペロンと剥がれたりはしないんだよ。試してみるかい?」

「……試しません……」

「強情だな。さっきからスーツと胸の隙間が気になって仕方がないくせに。わざわざ目に焼き付けなくても、今好きなだけ見てもいいんだよ? ほらほら」


 紅さんは調子に乗って、胸元を軽く引っ張りながら身を乗り出してくる。俺はそれから逃げるために、身体を横に傾けていく。

 やがて、それも限界に達した。

 俺はベンチに寝そべる形になり、紅さんは俺に覆い被さる形になった。こうなったらいったん身を引くのが普通だと思うが、紅さんは俺の腰を膝で挟み、文字通りにマウントを取った。

 俺は薄く笑う紅さんを見上げながら言う。


「紅さん……どいてください」

「やだね」


 俺の下腹部に、紅さんのお尻が落ちる。「ごぅふっ!?」と悲鳴を上げると、紅さんは楽しそうにくすくす笑った。


「今日は逃がさないと決めてるんだ。キミがぼくに欲情したって認めるまで、離さない」

「……何が、そんなに面白いっていうんですか。俺があなたをそういう目で見てるってわかったって、気持ち悪いだけでしょう」

「他の男なら気持ち悪いさ。でも、キミにだったら、すごく嬉しい」

「どうしてですか。身体目当ての最低な奴じゃないですか」

「だってさ……キミは、傍から他人のことを見ているばかりで、自分のことを話さないじゃないか」

「……………………」

「それがどういうものであれ、キミが自分のことを正直に話してくれるなら、ぼくはすごく嬉しいよ。やっと……キミと同じ場所に来れたんだって、そういう気分になる」


 ……そんなの、錯覚だ。

 あなたと俺とは、違う世界の人間だ。

 仮に錯覚じゃなかったとしても――

 ――あなたみたいな人が、俺のいる背景に来るなんて、あってはならない。


「ねえ、ジョー」


 紅さんは俺の頬に手のひらを添え、親指でこめかみの辺りを撫でた。


「キミは、ぼくを何でも簡単にできる奴だと思ってるかもしれないけどさ。……ぼくにだって、頑張らないといけないことはあるんだよ?」

「……………………」

「今だって、恥ずかしいのを頑張って堪えてるんだ。こうしてるだけで顔から火が出そうなんだよ。こう言いながら、言わなければ良かったって後悔してるんだ」


 嘘言え。そんなに平然とした顔と、声音で。

 ……けど、そんな嘘をつかない人だってことは、もう知ってる。


「好きって言うたびに、勇気を振り絞ってるんだよ、ジョー。キミにはそんな風に見えないかもしれないけど、ぼくはいつだって本気なんだ。だから、たまにくらい――応えてくれてもいいって、そうは思わないか?」


 ――その勇気は、すげぇもんだと思うんだよな、おれは


 ついさっき聞いた、星辺先輩の言葉が脳裏を過ぎる。

 先輩は元カノの言動に愚痴りながらも、その勇気にだけは敬意を表していた。きっと恋愛感情はさしてなかっただろうに、それでも一度付き合ったのは、たぶん、その敬意があったからなんだと思う。


 今まで、紅さんのこういうアプローチを、何度も受け流してきた。だって、俺には資格がない。こんなに眩いスポットライトを浴びた、主人公みたいな人の横に立つ資格がない。だから、こんな気の迷い、こんな冗談みたいなことで、彼女に傷を付けたくない。その一心で、全部全部拒絶し通してきた。


 でも、それは、彼女の勇気を足蹴にする行為だったのだろうか。

 俺は紅さんを傷付けまいとして、彼女を傷付け続けていたのだろうか。


 ……いや、本当はわかっているんだ。ただの遊びで、こんな風に何度も迫られるはずがないってことくらい。

 でも、信じられないんだ。

 今まで、当たり前に一人きりだった。今まで、当たり前に無視されてきた。今まで、当たり前に誰の視界にも入らなかった。


 なのに――初めて、俺のことをまっすぐに見てくれる人が。

 こんなに綺麗な人だなんて――信じられるはずがないじゃないか。


「……紅さん、俺は――」


 まだ、信じられない。

 けど――あなたが、勇気を出したというのなら。

 きっと俺も、勇気を出すのが筋なのだ。


「――あなたに、とても、……欲情しました」


 紅さんが、大きな目を、さらに大きく見開いた。

 その顔を見て、頭が爆発しそうになる。秒で後悔した。言わなければ良かった。今すぐ消えてしまいたい。なのに、紅さんは俺を放してはくれなかった。


「……っふ、ふふ」


 小さく噴き出して、肩を揺らし。

 それから、俺の顔を両手で捕まえて、逃げられないようにして、瞳を覗き込んでくる。


「どこに?」

「……はい?」

「ぼくの、どこに欲情したのかな?」

「……言わなきゃ、ダメですか?」

「ダメだよ。……言うまで、逃がさない」


 勘弁してほしかった。思わず泣きそうになったけど、紅さんから逃げられるなんて、俺にはとても思えなかった。


「その……背中が、白くて。肩甲骨とか、肩の輪郭とか、普段は見えないところが……」

「うん。他には?」

「お、……お尻、に、その……服が、食い込んでるところ、とか……」

「うん。他は?」

「胸が……み、見えそう、で……」

「他」


 問いを重ねるたびに、紅さんは身体を密着させてきた。俺の胸板で柔らかな膨らみをむにゃりと潰し、密やかな吐息を首筋に吹きかけてくる。どこから香るとも知れない甘い匂いが、脳髄に染み渡ってビリビリと痺れさせた。


 だから、どうしようもなく。

 言葉よりも、態度よりも、何よりも雄弁な証拠が――


「……あっ?」


 紅さんが戸惑いと驚きを含んだ声を漏らし、自分のお尻のほうを振り返った。

 そこに当たった感触に、気が付いたのだ。


「これって……」

「すっ……すみません……」


 俺にはどうしようもなかった。こんな体勢じゃあ、誤魔化すものも誤魔化せない。

 紅さんの顔が、見る見る赤くなっていくのがわかった。

 身体がぷるぷると震え出し、冷や汗のようなものが首筋に浮いて、


「ジョ、ジョー……あの……」

「は、はい……?」

「……今日の分の勇気は、……もう、品切れかもしれない……」


 え?

 俺が戸惑っているうちに、紅さんは素早く俺の身体から離れ、自分の浴衣を胸に抱えた。


「ほっ、本当にごめんっ! それじゃあ!!」


 そして、疾風のごとく走り去ってしまった。

 俺はベンチの上で、中途半端に身を起こした状態でそれを見送り、……まだ甘い痺れの残滓がわだかまる頭で、思う。


 ……可愛かった。

 顔を赤くした紅さんは、思い返すだけでどうにかなりそうなくらい、可愛かった。






◆ 紅鈴理 ◆


 手早く浴衣を着込んで帰りついた女子部屋には、蘭くんしか残っていなかった。


「あ、お帰りなさい、会長。どこに行かれてたんですか?」

「ちょっと飲み物を買いにね」


 平静に答えながら、ぼくは窓際の広縁に行く。

 窓の前に向かい合わせる形で置かれた椅子の片方に腰掛け、さっき買ったままプルタブも開けていない缶ジュースを一口飲んで、


 ――絶対イケたあああ~~~っ!!


 心の中で頭を抱えた。

 さっきのは絶対イケた! そういう雰囲気だった! ぼくがビビりさえしなければ! だっ、だってビックリしたんだもん! 知識ではわかってても! あんなに、過去最高に可愛くなってたジョーが、いっ、いきなり、あんなっ……! うああああああ!!

 ぼくって奴は! 他のことなら大抵緊張もしないのに、どうしてああいうときだけ! せっかく余裕ぶってたのに、あんなの生娘丸出しじゃないか!!

 絶対イケた……。絶対イケたぁぁ……。場所がちょっとアレだったけど……。いや、そう、人気がないとはいえ公共の場所でっていうのはね……ちょっとね……。そう、ぼくは良識ある人間として、場所を選んだだけなんだよ、うん。……でも絶対イケたぁ……。


 今日はもう寝たい……。布団に倒れ込もうかと思ったが、それには浴衣の下に着込みっぱなしのバニースーツが邪魔だった。

 ……次は、どんな衣装がいいかな。

 そんなことを考えながら、ぼくは背中側のファスナーに手を掛けた。

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