もう少しだけこのままで② 完璧美少女生徒会(?)
◆ 伊理戸結女 ◆
先輩たちに続いて入室した途端、室内のざわめきが凪ぐのを感じた。
会議室に集まっているのは、各委員会の代表者たちだ。今日は新生徒会が発足して以来、二度目の定例会議。一度目はそれなりに緊張していたけど、二度目ともなればそれなりに要領はわかっているし、余裕を持って自分の席に座ることができた――けど。
今回は、一度目のときにはなかった視線が、私たちに集まっている気がした。
「……うわー……ほんとだ……」
「ね? 言ったでしょ? 今年の生徒会ヤバいって!」
「レベルたっか……」
「遠目に見たときはわかんなかったわー……」
いったんは凪いだ室内が、また別のざわめきに支配されていく。
一人一人は声を潜めているつもりなんだろう。でも、みんなが似たようなことを言うものだから、それは本人たちが思うよりも大きく、私の耳に届いてしまっていた。
――今年の生徒会は美女揃いだ。
なんて噂を、どこの誰が流したのか知らないけど、そういうことになっているらしい。
確かに、紅会長はカリスマ性とフェミニンな魅力を併せ持ち、亜霜先輩は(真実を知らなければ)長身でスタイル抜群、明日葉院さんは小柄だけど巨乳で顔立ちも可愛らしい。そういう風に言われても無理はないけれど、どうやら私もその中に含まれているらしいのが何ともむず痒くなってしまう。
それに、唯一の男子役員である羽場先輩が、空気のように無視されてるし。
「……軽佻浮薄ですね」
隣の明日葉院さんが、小難しい言葉で毒づいた。男子も嫌っていれば恋愛事も嫌っている彼女からすれば、その視線は鬱陶しいものでしかないだろう。
これも有名税ってやつなのかな。フィクションとは違って、生徒会なんてただの裏方で、注目を浴びることなんてないと思ってたんだけど――紅会長の輝きに、私たちまで照らされているのかもしれない。
「――あれで成績もいいんだからズルくない?」
「どうせ彼氏もいるんだろうなー」
「めちゃくちゃキラキラした恋愛してそー」
……それはどうだろう?
たまたま耳についた噂話に、私は中間テストの前にあった出来事を思い出した。
十一月三日。
私と水斗の誕生日が、来月の頭に迫っている。
水斗の中から昔の私を追い出し、今の私が代わりに居座る――そう決意して二ヶ月以上が経っていながら、大して進捗がないという体たらくの今、この大イベントを逃す理由は一つもない。
過去の私を超えるプレゼントを用意して、水斗を口説き落とすのだ!
……と、考えたはいいものの、アイデアが少しも出てこなかった。
プレゼントって、どうやって考えたらいいんだっけ?
一年にも及ぶブランクは、私の恋愛能力を完全に錆びつかせていた。仮にも彼氏がいたくせに、どうしたらいいか全然わからない。水斗って何をあげたら喜ぶんだっけ? いくら思い返しても、頭の茹だった勘違い根暗女が蘇るだけで、今の水斗が顔を赤くしてときめく図など浮かび上がってはこなかった。
かくなる上は、サンプルを取るしかあるまい。
そうして私は、紅会長と亜霜先輩と三人きりになったタイミングで、質問したのだ。
「お二人って……好きな人の誕生日、何しました?」
意を決して切り出した私に、二人はきょとんとした顔を向けた。
「えー? 何? ゆめち、いきなりさあー。それじゃああたしに好きな人がいるみたいじゃん! あたしにいるのは手のひらで転がしたら面白いセンパイだけで、べつに好きな人なんていないよ?」
「質問をするなら前提条件を正確にするべきだね、結女くん。それではぼくに好きな人がいるかのようじゃないか。ぼくにいるのは異常に自己評価が低くてイライラするクラスメイトだけで、べつに好きな人なんていないよ?」
そういうのいいんで。
と言いたいのを、私はすんでのところで我慢した。
「すみませんでした。質問を正確にします。亜霜先輩は星辺先輩の、紅会長は羽場先輩の誕生日を、どんな風に祝いました? 今、ある男子の誕生日プレゼントを考えてるんですけど、なかなかいい案が思い浮かばなくて……」
「ほほーう。男子の誕生日プレゼントね。それであたしたちの話を聞きたいと!」
「そういうことなら話すのもやぶさかではないよ。ぼくの経験が後輩の糧になるなら、こんなに喜ばしいことはないさ」
あ、なんか嬉しそう。恋愛経験を人に話す快感に酔ってそう。
正直、この時点で若干嫌な予感はしたんだけど、自分で言い出した手前、『やっぱいいです』とは言えなかった。
「それじゃ、すずりん、あたしからでいい?」
「うん。お手並み拝見と行こうじゃないか」
もはやウッキウキで、先攻を取った亜霜先輩が、鹿爪らしく両手を組んだ。
「センパイの誕生日って、八月だったんだけどね――」
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