あなたの顔を赤くしたい① 元カノは小悪魔になりたい
◆ 伊理戸結女 ◆
私こと伊理戸結女は、伊理戸水斗のことが好きである。
その状況自体は、およそ二年前、初めて会ったときとさして変わりはしない――違うのは、今の私が大人の女に成長していることと、水斗と一度付き合って別れてしまっていること……そして、義理のきょうだいになってから、さんざっぱら険悪に嫌味を言いまくった後だということである。
正直に言おう。
今更、好きとか言いにくい。
……いや、だって、そうでしょ!? 今まであんなに悪し様に扱っておいて、急に好き好きオーラ出し始めたら気持ち悪いじゃない! あと単純に恥ずかしいじゃない!
できることなら、あからさまな好意を見せずに、水斗を籠絡してしまいたい。
中学生の頃、付き合っていたとき以上に! 私のことを好きになって、あわよくば向こうから告白してほしい。
ヘタレているのではない。それが平等なのだ。だって、前は私から告白したんだから。
そういうわけで、私が目指すのはただひとつ。
好意があるのかないのか、わかるようでわからなくてやきもきさせる、小悪魔な女!
幸い、機会だけはたくさんあるので、折に触れてチャレンジしてるんだけど……。
「み――水斗っ!」
リビングのソファーに座っている水斗を見つけて、私は意を決してその肩に飛びつく。
気軽なボディタッチ!
男子に気を持たせる必殺技。……と、暁月さんが言っていた。
さらに私は水斗の顔を横から覗き込むようにして、
「な、何……やってるの?」
パーソナルスペースへの侵攻!
距離感の近い女子に男子はころっとオチるのだ。……と、暁月さんが言っていた。
水斗はちらっと私の顔を見ると、すぐに視線を自分の膝の上に落とす。
「読書だ。見ればわかるだろ」
「ふうーん……。何読んでるの?」
「英単語を擬人化したヒロインが出てくる暗号解読もの」
なにそれ。ホント変な小説好きだな……。
しかし、ここで攻めるのが小悪魔!
「へえ~、面白そう。今度貸してよ」
理解と興味!
近い距離感から理解と興味を示されると、男子は『この子、俺のこと好きなんじゃね?』と思ってしまう習性を持つ! ……と、暁月さんが言っていた。
さあ、やきもきしろ。自意識を働かせるがいい! 私のことが気になって仕方がなくなれ!
「いさなから借りたやつだから無理」
水斗はぺらりとページをめくった。
……………………。
「そ……そっか」
反省会を始めます。
今のくだりは、どうして失敗してしまったのでしょうか?
…………よくよく考えてみると、いつものやり取りと大して変わらないからではないでしょうか?
水斗を自意識過剰にさせるどころか、私ばかりが自意識過剰になって、攻めてる気になってるだけで実際には普段と大して変わっていないのではないでしょうか?
はい、そこ! 正論を言わないように。
「……………………」
時たま、上手くいくときはあるの。本当なの! 一割くらいの確率で覚醒するの!
けど、九割はこれ。
何かできてるつもりで何にもできてない。
む、難しい……。小悪魔ってどうやってやるの?
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