全ての結果


















 お前は俺の代わりに記憶と、体とを“白蛇様”に捧げたんだな。


 もう町の誰もが、俺以外の全員が、お前のことを忘れちまったよ。

 眠らない俺だけが、お前のことを、声だけを覚えてる。一晩寝ただけで忘れちまった皆と俺とではお前への思い入れが違ったのかな、なんて。……悲しさを紛らわす様に考えて、そして朦朧とする意識を引き留める。

 それでもやはり、短くは眠ってしまって……飛び起きる度につけていた日記を読み返すばかりだ。




 もう誰も、お前を覚えてない。お前が居たという痕跡は消えた。戸籍なんかは勿論無い。お前がよく居たという俺の病室のその場所に、今は俺が座っている。

 解る、よく解る。お前は恐かったんだな。俺が居なくなるのが恐かったんだな。俺が皆を忘れるのが悲しかったんだな。あんな意味不明の願を掛けた俺が憎らしかったんだな。だから身代わりになったんだな。


 ごめんの一言を言いそびれた俺は、その報いなのかお前と同じ目に遭ってるよ。




 忘れられたくなかったお前は、俺の居た病室で一切寝なかったんだってな。親父が話してくれた。

 何を馬鹿なことを、なんて思ったけど、その気持ち……今は解る。




















 だから俺は、お前のことを全てを忘れる前に……また、願を掛けに行く。

 ごめんは、言えないか。

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