家飲みのススメ(姉編)
研究都市の中心部から、少し離れた比較的静かな場所。
そこに居を構える建築会社。私はその調査部に勤めている。
仕事机にはデスクトップのPCが据えられ、傍らに資料と打ち込み予定の書類が積まれていた。
さして広くはないこの事務所には、常時数人がPCに向かっている。時折、作業着に身を包んだ従業員がやって来ては書類を置いて行った。
この部署は測量や区画調整、図面作成などをしていて、私の主な仕事はPCによる入力、清書作業だ。
現場の人たちが、測量などで調査をしてきた事柄をまとめる。古代文字のように走り書きされた字も、読み解いてしっかりと書類作成をせねばならない。
「もーう、なーんでこんな汚ったない字で書くかなー! 読ーめないでしょうよー!」
常々思う、もっと綺麗に書けないのだろうか。忙しいのは解るんだけど、もうちょっとこう……や、諦めよう。
間仕切りの向こうでは事務方が電話対応に追われている。
部署内には事務が3人おり、たまに手が回らない時には、私が電話対応をすることもある。
今日は忙しい日で、電話に出るとハウスメーカーさんからの連絡であった。
「やあ! 鳥井さん? 久しぶりじゃないですか!」
「はいはい。お久しぶりでございます」
あ。うっざいの来たわ〜。
受話器から聞こえた声に、即座にコイツか、と思った。が、思ったことはとりあえず胸の奥にしまって、努めて明るく落ち着いて返す。
しかし、要件を言うより先に今日の天気の話から、飼ってる猫の様子を告げられ、最近調子はどうかとか。挙句は今度食事でもしましょう、と誘われる始末。
決して悪い奴ではないのだ。ちょっとお調子者なのである。傷ついた猫を放って置けないくらいには優しい奴だと知っている。しかし早く用件を言ってくれ。
私は途中から「そうですね~ご用件をどうぞ~」と、まるで壊れたレコードプレイヤーのように繰り返していた。もし誰かがその様子を見たならば、きっとチベットスナギツネのような顔をしていたことだろう。
スマートフォンがグループメッセージの着信を知らせる。弟の
ポテト祭り! なんて素晴らしいんでしょ! わ~楽しみ♪
「良いね!」と返事をして早々仕事を片付ける。
事務所を出ると夕暮れに朱く、働く車たちが照らされていた。力強いアームやキャタピラに思わず見惚れる。無骨に見えるそれらが、一生懸命に動いている姿は頼もしくも可愛いのだ! 機能美にあふれるその姿は、薄汚れても美しい。
ひとしきり車たちを眺めた後、自分の車に乗り込んだ。
お酒を買って行こうと帰りにスーパーに寄る。
駐車場の空きを探して徐行していると、お気に入りの焼き鳥屋さんの車が停まっていた。それに気づいて、たちまちテンションが上がる。美味しいのいっぱい買って行こう! 1人5本くらい食べるよね!
スーパーの店内に入る前に早速、焼き鳥屋のおっちゃんに注文をしに行く。
この焼き鳥屋はタレが美味いのだ! 何かフルーツとニンニクとかが入っていそう!
甘辛く、色々複雑な味がしてとにかく美味い!
今日は鶏皮ニンニクが売っていた! ニンニク一欠片を鶏皮で包んであるのが、4つ串に刺さっている。これが美味しいんだ!
ネギマも良いね、あ、カシラもある! ボンジリも美味いんだよね〜♪
たくさん注文してウキウキとスーパーへ向かった。
店内に入ってカートにカゴを乗せる。私のお目当ては黒ビール。特にドイツのものが良い。
滑らかな口当たりに深みがある甘さと、ホップ特有のコクのある苦みが良い。苦味は重要だ!
最近ではスーパーにもけっこう置いてあったりするので嬉しい。
華やかな物やフルーティな物もあるが、私はそれらが苦手なのだ。
アルコールのコーナーに着いて物色する。目当ての黒ビールはすぐ見つかった。悠と千子ちゃんにも何か買って行こうかな。
悠はなんでも飲むのでとりあえずビール。千子ちゃんにはチューハイの甘いやつにしよう!
カートにぽいぽいと放り込んでサクッとレジに向かう。
ポケットから小銭を取り出して支払う。ちょうど、お釣りで5円が返ってくように出せて気持ち良い。
焼き鳥屋のおっちゃんのところに行くと、ばっちり出来上がっていたので受け取って会計を済ます。炭火で焼けるタレの良い匂いが辺りに漂っていた。う〜ん、早く食べたい!
逸る気持ちを抑えハンドルを握る。車の中に美味しそうな焼き鳥臭が充満する前に、無事自宅に到着出来たので良かった。
「ただいま~! 焼き鳥買ってきたよ~!」
「お~姉ちゃん、おかえり!」
「おかえりなさいまし~♪ わ~い! 焼き鳥~! ポテトあるよ、ポテト!」
テーブルの上や台所には山盛りの皮付きフライドポテトに、ギザギザのや細長いスティック状のフライドポテト、そしてポテトサラダと、まさにポテト祭りなお料理が並んでいた!
他にもボイルソーセージや、唐揚げまであった! まあ凄い!
悠の揚げる唐揚げは美味しいのよね! それに、同じく揚げてくれた皮付きポテトも、お店で出て来るような美味いフライドポテトなのよ!
「うお~! ご馳走だね~!」
私のテンションは最高潮!
すぐさま着替えてきて、買ってきた焼き鳥も並べた。
『乾杯〜!』
そうして今週も、3人の楽しい宴が始まるのだった。
これで来週も、頑張ってお仕事できるわね!
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