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夕方時、リリィはある駅の前にいた。ルークから連絡が来たのだ。それは「いつもの場所で会おう」という旨だった。ルークから急に連絡が来ることはいつものことだったので、すぐに必要なものを揃え、"いつもの場所"に向かった。そこはかなりの人が待ち合わせに使う場所で、車が走る通りには面しているものの、人混みを掻き分けなければどの車が来たかはわからないような場所だった。リリィがそこに着いたときもいつもと同じようにかなりの人がいた。リリィは車道からはかなり離れたショッピングモールの入り口の壁に寄りかかって、ルークが来るのを待った。ぼーっと通りを見渡せば、夕暮れ時で仕事帰りの人が多いからだろう、かなりの人が目の前を通る。疲労をにじませた若い会社員、大笑いしながら歩く女子高生、コーヒー片手に早足の女の人…と、ふと、見知った車が止まるのが目に入った。車道の方に向かってゆっくり歩いていくと、ルークがちょうど窓を開けているところだった。
「急で悪いな。…まあ、リリィならたいした問題じゃないと思うが」
「ふ、まあね。ちょっと慣れちゃったわ」
リリィはそう言いながら後部座席のドアを開け、車に乗り込んだ。
「服はいつも通り後ろにある。あと、他に必要なものも後ろだ」
「了解」
リリィは自分の座っている席の隣の席を前に倒し、その後ろに収納してあるピンクのイブニングドレスを取り出した。それに続いてカバンやメイク道具を取り出しているのを確認して、ルークは運転席と後部座席の間のカーテンを閉めた。
「データは手に入ったの?」
「ああ、バッチリだ。…なんだが、それだけじゃちょっと不十分でな。現場証拠も追加したいんだよ」
「ああ、それで呼んだのね…」
「そうだ。今日は俺とリリィは兄妹の設定でいこう。世間知らずの妹を心配してパーティーに連れて来た兄っていうのはどうだ?」
「了解。私が"彼"を引き付けておけばいい?」
「そうだな、もしうまくいかなかったら、俺がやつを引き付ける。その間に例の会合に忍び込もう」
着替えが終わり窓をのぞきこむと、ちょうど橋を渡っていた。夜景を映した海が見え、小さな宇宙の中を走っているようだった。その景色にしばし見惚れていると、未だ閉まったままのカーテンの向こうから声が聞こえた。
「そういえばまだアイツの準備ができていないんだよな…潜入するまでに間に合うか微妙なところだ」
「まだ着いてないの?…まあできるだけ時間を稼ぐわ」
それからもろもろの準備を済ませ、シャッとカーテンを開けた。するとフロントガラスの向こうに大きなホテルが見えた。ドアマンの誘導に沿って入り口に車を止める。ルークはすばやく席をたち、ゆっくりと後部座席のドアを開けた。しかしリリィはすぐには車を降りなかった。ルークはその様子を怪しみ、車を覗き込んだが、すぐ口の端をつりあげ、にやりと笑った。すぐにリリィの肩を叩く。
「おい、実花!早く降りろ!後ろで車が待ってんだよ!」
実花というのはリリィがよく使う偽名である。
「んー、功一兄ちゃん?もう着いたの?」
リリィは目を擦りながら薄目でルークを見た。功一というのもルークがよく使う偽名である。
「そうだよ、ほら早くおいで!」
ルークはリリィの腕をつかみ、車から出した。
「もー眠いよー」
「しっかり立て!」
リリィを引っ張りながらルークは招待状を受付に手渡した。
「で、では、こちらからどうぞ…」
二人の様子にすこし困惑気味の受付係が、二人の勢いにつられてドアを開けた。ルークはリリィをきちんと立たし、身だしなみを整えさせた。ドアが開くのと同時に、二人は口をわずかに動かしていたのだが、それを知るものなどいないだろう。
「相変わらず演技がうまいのね、"功一兄ちゃん"?」
「お前に言われたくないな、"実花"?」
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