第27話 未来へのメッセージ前編
二〇一三年十二月十二日午後八時二十五分
「ただいまー! 今帰ったよ、咲夜!」
「あれ? お帰りなさい、仁! 今夜は遅くなるんじゃなかったっけ?」
ドアを開けて、玄関に入り靴を脱いでいたら、リビングから早足で咲夜が玄関まで駆け付けてくれた。
「その予定だったんだけどさ――」
「って、その顔を見る限りでは長くなりそうね。まずはあがったら?」
「あははは、さすが咲夜! わかってるね~」
「その嬉しそうな顔を見れば誰だってわかるわよ。で、今日はどんないいことがあったの?」
「そうそう! それがさぁ、同じ部署の高木君なんだけど――」
「へぇ~、そうだった! それは誰でも嬉しいけど、仁は特に嬉しいわね」
「そうなんだよ~! 彼のこともそうだけど、アニキにその話を伝えた人からアニキ、自分ときて、そのあとみなみちゃん、高木君と想いが繋がっていっているということが、何よりも嬉しくてさ! 終わった後、新たにやってみたいことが閃いたから興奮して会場内でみなみちゃんに話していたら――」
「「片付けの邪魔になるから先に帰っていってください」と?」
「そこまでストレートな表現ではなかったけどさ。でも、「ここは任せてください!」って言ってもらえたこともだし、何よりおれ自身が『彼らに任せたい! 任せても大丈夫だ』って思えたことが初めてで、それも嬉しくって!」
そう。いつも自分が関わるイベントで先に帰ったことは、これまで一度もない。『責任感がある』と言われれば、外から見たらもしかしたらそう見えるかもしれない。
自分自身もこれまでそう思ってきたし、そう思ってやってきたが、あの代表者ミーティングの件があって以来、自分の気持ちを感じるようになってから、考えが変わってきている。もちろん『責任感を持ってやる』という気持ちは、今でも強く持っている。
でも、最近の自分の場合、そもそも「自分が最初から最後までいなきゃ駄目だ!」という思い込みが相手を信じきれていないことと、自分がいないと始まらないという変な思い上がりが、いつの間にか自分を占めている。
そのことに先月ようやく気が付いたわけである。別にそう思うことがどうこうではなく、今の自分の現状――みなみちゃんもいて、急成長中の高木君もいて……さらに、ここ最近では他の部署からのバックアップも、自分たちの気が付かないところでやってくれていて……この状況と仕事の内容を照らし合わせてみると、初めて『後は任せる』という選択肢が生まれたような気がした。特に今回のようにそもそも自分が全く関わっていないイベントなら、なおさら彼らこそが一番頼りになるはずだ。
「じゃあ、前々から仁が作りたいっていっていた繋がりが、見えたきた感じ?」
「う~ん、実は前々からイメージした形とはちょっと違うかも」
「そうなの!? 仕事の話をすると、いつもその話になっていたのに」
「そう……なんだよね。まだ上手く言葉には出来ないんだけど、前はどちらかというと『自分のイメージしている繋がりを作りたい!』というのがベースだったんだ。だけど、今回の件もそうだけど、全然イメージも意識もしていないことが結果的に繋がっていて、それが自分にとって嬉しいことだった。というだけで、イメージ通りでもなんでもなかったんだ。でも、逆にそんな想定外のことだったから、余計に嬉しくてさ!だもんで、自分が大切にしていることはその『繋がり』の先なのか、中なのかわからないけれど、『繋がり』という単語ではなかったんだよね、きっと」
「そうなんだね。仁は本当によく考えているわよね。私なんて、『思ったことをパッと行動して、パッと忘れる』の繰り返しだから、特に最近の仁はすごいなぁって。自分自身とそうやってずっと向き合い続けているから」
「たぶん、それは考えてみることをただ単におれは好きだから、なんだと思うよ。逆におれからすると、良いと思ったことに目を輝かせながらすぐに行動してしまう咲夜のことが、いつも羨ましく思っていたしね」
「そうなの?」
「そうだよ~。でも、最近は羨ましく思いつつも、自分が好きなことをやりながら行動できるようになった自分が大好きになってきてるんだよね」
「そっかぁ。そう捉えることもできるんだね~。いつものことながら、仁の話はいつも勉強になるよー。ありがとう、仁♪」
「どういたしまして♪」
「まぁ、その反面、この手の話に一度火がついてしまうと、もう手が止めれないけど♪」
「あははは。でも、それは咲夜が食事の話をしているときと同じじゃない?」
「えっ、そうかなぁ? というか、食に対して熱くなるのは普通だよ? だってさ――」
頷きながら、『あぁ、やっぱりお互い熱弁スイッチがあるんだなぁ』ということをますます確信しつつ、久しぶりの平日夜の時間を夫婦で楽しんだ。
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咲夜と散々お互いの熱弁のあと、彼女には先に風呂に入ってもらって、自分はその間に思う所があって書斎に移動した。
「やっぱりボズはそこにいるんだね」
「よくわかったね、仁。なんで書斎に入る前からわかったの?」
「いや、特にわかったわけではなく、なんとなくだったんだ。でも、なぜかボズが書斎にいるという確信だけはあってさ」
「そうなんやね! じゃあ、仁は第一ステージ卒業なんだね、おめでとう!」
「第一ステージ? おめでとう?どういうこと、ボズ?」
「あ、ごめんごめん! 正確にはオレと対面してからのステージを卒業したってことかな」
「???」
ボズがいっていることがサッパリわからない。確かに成長してきた感じはするけれど、何かをやりきった感覚はまったくない。
「何かをやったら卒業するってだけではないよ、仁。卒業にはいろんな形の卒業があって、人それぞれ卒業するテーマやタイミングが異なるんだ。だから、他人と比較しても優劣は必ずしもつかないってこと。
たとえば、今回仁はオレのことを自分で感じれるようになってきているよね? 前は感じれなかったのに……でも、その感覚は仁よりも若い子でも既に身に付けている人は少なからずいるんだよ」
「えっ、そうなの!? じゃあ、みんなにもボズのような存在が視えているの?」
「視えている、というよりはおそらく感じているっていうのが正確かな。仁の場合は、前は特に目でみえるものしか信じれていなかったから、オレの方で意識して仁でも視えるにしてたから今までは視えるときもあれば、視えないときもあったんだよ」
「そうなの!?」
「そうなんよ♪ でも、さっきは今までと同じ状態にしていたけど、仁はオレのことを感じたんよね?」
「う、うん。本当に理由もなくなんとなくだけどね」
「そう、それ!」
「???」
「感じたことに理由って必要なん?」
「と言われても……う~ん、あんまりそのことについては考えたこともないかもなぁ。なんとなくは曖昧な感じがしてさ」
「曖昧な感じなんやね? じゃあ、そんな感じは悪い感じがしたん?」
「……そう言われてみれば。今回で言えば、少なくとも悪い感じがしなかったかな。むしろ、なんかワクワクする感じだったかも」
「ワクワクする感じ?」
「そう! だって、今までは突然現れたように感じるし、何より自分からはボズのことを感じれなかったじゃん?だからか、もし本当にボズがいたら……って思うと、ワクワクしちゃってさ♪」
「なるほどねー! それで彼女を風呂に誘導したと?」
「そう言われると、悪巧みしたみたいじゃんかー」
「ん? 違うの?」
「うっ。意識はしてなかったけど、そうかも」
「ね♪ 話は戻すけど、『なんとなく』にも『曖昧』にも必ずしも悪い意味で使われるばかりではないってこと。それらの単語に対して、仁自身がどんな受け取り方をしたのか? その結果が、感情や行動として現れてくるだけ。この話に近いことは何度も話してきたけれど、今の仁ならオレが本当に伝えたかったメッセージが伝わってきたんじゃないのかな?」
「そうだね! それこそ、なんとなくだけどね。そっかぁ、おれも最近そのことは意識してきているつもりだけど、いざ自分のこととなると、やっぱりわかっていなかったんだなぁー」
「まっ、そのこともわかっていないことが、イコール悪い訳ではないからね♪」
「な、なるほどね。言ってるそばからやっちまったかな」
「まぁ、最初の方はそんなもんだと思うよ! でも、もし仁がもっと自分のことを感じれるようになりたいと思うなら、もう一つ行ってみると良い時間軸があるけどーー行ってみる?」
「うん、行ってみたい! もしそういったチャンスがあるなら!」
「ちょ~っと今までと違う感じだけど本当に良い? もしかしたら、かなり戸惑うかもだけど――」
「もちろん! というか、ボズと会ってから戸惑わなかったことはなかったから、もう慣れたよ」
「そう? じゃあ早速行ってみますか♪ 準備は……特にないだろうから今すぐね。
はぴ・くろにす・うる・ぴーた」
ボズが呪文を唱え終わると、今まで通り周りが急に明るくなって、意識が遠ざかってきた。
「ちょ、ちょっと待って! 一体どの時間軸なの?」
「それはね……未来だよ」
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