第21話 何も知ろうとはしていなかった
二〇一三年十一月二十二日午後九時四十五分
状況をわかっていなかったのはおれだけでは?
みなみちゃんと高木君の話を聴いていると、そうしか思えなかった。そういえば今夜ここに来る前、打ち合わせが終わってから資料を整理している最中にも……
***
「仁さん、今少しよろしいでしょうか?」
先ほどの打ち合わせで話し合われた内容を紙に書いて急いで整理していたら、みなみちゃんに声をかけられた。
「ん、佐倉リーダーどうしたの?」
振り返ってみると、高木君も彼女と一緒にいた。
「実は、前回の会議資料までの取りまとめが終わりまして、これから――」
「もう終わったの!? 他の支社やクライアント用も!?」
頼んだばかりの作業がもう仕上がったという報告をきいて、仁はとても驚いた。
「はい。私のチェックも終わっていますが、大半は高木君が――」
「そうなんだ、二人ともありがとう! いやぁ、量が量なだけにまだあと一週間はかかると思っていたよ」
「はい、私もそう思っていました。そこで、今回の資料を高――」
「もちろん、今回の資料作成も二人にお願いできるかな?」
仁は佐倉の報告を最後まできくことなく返答をした。
「「はい!」」
「じゃあ、もうすぐ仕事を終えることができるから、今日のところはゆっくりして待っていてね」
「はい、ありがとうございます! では、仁さん後ほど」
そういって、二人は自分たちの席に戻っていった。
***
(あのときのことを思い出してみても、自分自身は高木君と直接会話は全くしていないし、みなみちゃんは何度も高木君のことで話そうとしていたような気がする)
そういえば、今までの資料も彼女一人でやりきるにはあまりにも量が多かったし、それ以上に『次にどう活かすか』という提案までしてくれていた。
よく考えてみたら、とても一人だけでできる量ではない。しかも、彼女は通常外出することが多いから尚更だ。
「そういえば、高木君」
「あ、はい。梅里部長」
「今まで資料作成ばかりお願いしてきたけれど、今までに資料作成とかもよくしてきたの?」
あまりにも資料が早く、しかも丁寧に出来上がっているので、仁は高木がこれまでそう行ったことをよくやっていたからだと考えた。
「いえ、今まではぼくが実行してきたことを、資料作成が得意な仲間がまとめてくれることがほとんでした。なので、ぼくが資料作成を本格的にしだしたのは、入社してからでした」
「そうだったの!? 私からすると、頼んだことはすぐに資料にまとめてきてくれたから、てっきり高木君の得意分野かと思ってたわ」
高木の反応に佐倉も驚いている。
「みなみちゃんも知らなかったんだ!? 高木君はそのこと……」
「なんとなく気づいていました(笑) 最初から応用的なことをたくさん任されるようになったので、「この人Sか!?」って何度思ったことか」
「あははは。それは確かに! 大阪で一緒に仕事上のやりとりをするようになってから、何度キラーパスが飛んできたか! まぁそのおかげで場数をたくさん踏めたし、意思疎通ができるようになったから仕事が楽しくなったし」
懐かしいなぁ。
あの時は初めて任された研修先の会社がみなみちゃんがいた会社だったから、とにかく張り切っていたけれど…次々に笑顔で繰り出されてくる彼女の要望や意見に応えるために、それこそ必死になっていたことを仁は思い出した。
「それわかります! なので、ぼくのところにも毎日毎日キラーパスが飛んできて、何度スルーしようかと思い悩んだことも……でも、やり続けていたらだんだん楽しくなってきまして」
そっか。出来上がった資料を読ませてもらっても彼女らしい意図を感じたから、てっきり彼女がほとんど作ってくれたと勘違いをしていた。でも、実際は――。
そう思ってみなみちゃんの方を見てみると……下を向いてブルブル震えている。
「あれ? 先輩、どうしたんですか? 酔ってしまったんですか? でしたら、この薬が――」
「あ、それ以上言うと――」
再度恐る恐るみなみちゃんの方を見てみると……笑顔でニコッとしていた。
「仁さん、高木君」
「「はいっ!」」
「二人とも、次からも~っと優しくしてあげますね♪」
「「それは、ぜっったいに嘘だー!」」
そう言いながら逃げようとする高木君をみなみちゃんが一瞬のうちに確保。このモードになった彼女はある意味無敵だ。
こんな感じで三人揃って心から笑って会話したのは、このときが本当の意味で初めてだったかもしれない。
そうやって綺麗にまとめようと必死にがんばったけれど――このあと俺たちは無事に帰れるんだろうか……。
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