第13話 もう一度
一九九一年七月四日午後六時
「ようやくお兄さんにとっての答えが出たんだね?」
「あぁ! なんかこれなんだ! って初めて自分で思えて。君はこう答えを出すことを知っていたの?」
「ううん。でも、お兄さん自身が答えを出すってことは信じてました♪」
「そっか……信じていてくれたんだね。ありがとう」
「いいえ♪ で、どうします?」
「まだどうするかは決まっていないけれど……とにかく元の時代に戻ったら体を全力で動かしてみて、それから考えてすぐに実行してみるよ!」
「それはいいかも! また一緒にドッジボールしようね♪」
「おぅ、しよまい! 今回は本当に一緒に遊べて嬉しかったよ。ありがとう。話も聴いてくれたし……これじゃあどっちが年上かわからないな」
そう話していたら、だんだん自分の体がボヤっと輝きはじめた。
「どういたしまして! ぼくは疑問に感じたことを聴いてみただけだよ。ただそれだけ。それを大人達がどう解釈するのかだけど……大人に都合の悪い質問は全部却下されちゃうから、お兄さんもそういったことができなくなっただけだと思う。大人の方が思い込みは激しいからね。お兄さんはそうはならないでね!」
「あははは、それを言われると耳が痛いよ。でも、出来るかどうかは関係なく早速帰ったらやってみるよ」
輝きだした光の影響でもう少年の顔も見えなくなってきた。
「うん、ぜひやってみて! でも……」
「でも?」
もう声も聴こえなくなってきた。
「否定してきた自分の想いを受け取りにきてくれてありがとう、お兄さん♪」
シュー……シュパンッ!
***
二〇一三年十月二十四日午前六時
シュー……シュパンッ!
ゆっくり目を開けて辺りを見回してみたら、自分の書斎の本棚が見えた。
「あれ、ボズがいないなぁ。ボズー? ボズここにいるの? って、この状況じゃあまだ自分にはいるのか、いないのかわからないなぁ。まぁ、また近いうちに会えるだろう。
そう、今は自分にはやるべきこと、やりたいことがある。とにかく今日のところは風呂に入って、すぐに寝て、早朝ランニングでも久しぶりにしてみようかな。あ、でも、ここんところ体を動かしていないから、ランニングウェアはどこにあるんだろう?」
独り言を呟きながら、書斎を出て、こっそり寝室に入り、妻を起こさないようにまずはランニングウェアを探してみることにした。
***
二〇一三年十月二十四日午前七時
「ただいまー!」
そう言って早朝ランニングから家に戻ってきた。久しぶりにランニングをするから軽く二キロメートルくらい走るだけにしようとしたけれど、結局走っている間にだんだんテンションが上がってきて靖国通り沿いに神保町を経由して、九段下まで。
折角九段下まで行ったから靖国神社で参拝することに。いつもは参拝してもお願い事しかしなかったけれど、今回は参拝するときに自然と自問自答している自分がいた。そのとき自問自答した問いが『本当に全力だったか?』ということ。
そして、そこから得た答えが、『もう一度話し合ってみよう!』ということ。
これまで会議で打ち合わせをしてきたし、日頃から想いを話してきた……つもりだった。けれど、お互い想いを確認することもなく、分かり合えていると思っていたからそうすることもなかった。
小二の頃の自分と会えて学んだこと。
それは、ワクワクして楽しんで物事に取り組めていたのなら、やる気もモチベーションも必要ないということ。
実際に仕事では楽しいと思ったことはあったものの、それはただ相手が喜んでくれたり、感謝してくれたり、外から何かが得られて初めて楽しいと感じていたように思う。
けれど、小さい頃は相手がどうこうではなく、自分が楽しいと思えることだけをやれていたから、毎日を全力で生きていた。だからこそ、その当時後悔した記憶は一切なかったのだと確信した。
「みんなが全力で仕事ができる場が作れるかどうか? ではなく、それを本気で作りたいとおれが思っているのか? ただそれだけに意識を向けてみよう。そして、この気持ちをそのままみんなに話してみよう。
それでどうなるかを考えていると、今の自分では悪い方向にしか考えれないし、今の自分にできるのは現時点のみんなと想いを分かち合うこと。これに専念してみよっかな!」
そんな決意をして帰ったからか、久しぶりに体を動かせたからか、今までにないくらい清々しい気分だ。
「あら、仁? お帰りなさい! どこに行っていたの、ジャージ姿で?」
「あぁ、咲夜。ただいま! ちょっと体を急に動かしたくなってね」
「へぇ~、そうなのね。仁のジャージ姿は結婚式以来かも」
「確かに。でもお陰様でなんか今やるべきことが見つかった気がするんだ。そうそう、これから早目に職場に行って、今日は早く帰ってくるから久しぶりにカラオケでも行かないか?」
「え!? どうしたの急に?」
「いやぁ、なんか自分が全力で出来ることをもう一度やってみたくなってさ。どうかな?」
「うん、いいよ! 確かに仁はカラオケでは人が変わったように熱くなるよね♪ その姿を見ていて、私も歌が上手いとか下手とか関係なく歌うことが好きになったんだよ」
「そうだったんだ……全く気づかなかったよ。じゃあ夜六時に小川町駅近くにあるスタバで待ち合わせでどう?」
「夜六時に小川町駅近くにあるスタバね、了解! じゃあスタバの中で待ってるからね」
「おぅ、ありがとう、咲夜。じゃあシャワー浴びてからすぐに仕事に行くね!」
「うん、いってらっしゃい、仁!」
朝からこんなに咲夜と話をしたことは何年ぶりだろう。まだまだ咲夜ともちゃんと想いを確認し合っていないから、今月中にはゆっくり話し合う時間を作ることにしよう!
なんかそう考えるとだんだんワクワクしてきた。何も状況は変わってないし、具体案はないけれど。
もう一度自分とみんなと向き合ってみよう。
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