第2章 表現できていた時代
第11話 夢中
一九九一年七月四日午後三時
シュー……シュパンッ!
眩しくて周りがまだよく見えないけれど、だんだん視界が開けてきた。見えてきた建物はどこかで見たことある白色のマンション。鉄道がマンションの横を走っていて、駐車場と駐輪場、そして倉庫があって。
「ここは実家のあるマンションだ! この色のマンションは懐かしいなぁ」
そう、学生時代まで住んでいたマンションは補修工事の度に色を塗り替えていたから、この色の頃は久しぶりに見た。
タッタッタッタッタッタ……!
と、そのとき目の前を爽快に駆け抜けていく少年が見えた。エレベーターの止まった階を見ると実家のある階にとまった。
「もしかして!?」
自分もエレベーターに乗ろうとしたけれど、物に上手く触れないので、しょうがないから階段から歩いて向かうことに。
「物に触れないということはどうやって家に入れるんだろう? 通り抜けられるのかな?」
思った通りドアは通り抜けることができて、家の中を進むと中から声が聞こえてきた。
「有馬くんは家に帰ってからすぐに宿題をやっているのよ! だから、仁もやってから行きなさい」
「わかったよ! 外から帰ったらすぐにやるからー!……行ってきまーす」
「ちょ、ちょっと、仁!」
母親の制止も聞かずに少年はさっと外へと逃げていった。
「あははは! おれの逃げ足の速さはあの頃からだったのかな? でも、この頃からずっと思っていたけれど、なんでどこの親も自分たちが友達を比較の対象にすると「よその家と比べちゃ駄目!」っていうのに、そういう親はよその家と比較するのかずっと疑問だったよなぁ。なんでだろう?」
そんなことを思い出しながら、少年を追いかけることにした。
もう完全に見失っているけれど、外で遊ぶっていったらだいたい近くの公園にいると思って移動したら、案の定そこに自分はいて、他の友達七人と一緒にドッジボールして遊んでいた。
みんな無邪気に遊んでいてとっても楽しそうで、笑顔でいっぱいで……見ていたらフッと『うらやましい』という感じがした。
「うらやましい……確かにそうかも。最近あんな表情で遊んだり、仕事したりしている自分はいなかったと思うし。その感じが周りにも伝染してしまっているのかなぁ」
そんなことを考えていたら、たまたまボールが(少年時代の)自分の顔面にぶつかった!
「うわぁ、痛そ~!」
遠くから見ていても明らかに痛そうで、喧嘩でも始まるのかと思った。
けれど、予想外に自分は痛そうにしているけれど、表情に全然怒りの感じがなくて、心配して寄ってきてくれた友達に笑顔を見せて、またすぐに遊びを再会していた。
「なんでだろう? 今の俺だったら、間違いなく喧嘩はしないまでも、怒りも笑顔も出ないかも」
そんなことを考え込んでいたら、いつの間にか日が暮れてきて、友達が先に帰っていった。それを自分は笑顔で見送ったあと、一人でドッジボールの練習をし始めた。
その表情を見ていると、すごく真剣に遊んでいて、完全に遊びに集中している様子。
この当時のことを改めて思い出そうとしてみた。ガキ大将でいつもみんなを引っ張り回していたこと。そして、ただみんなで遊んでいたという記憶しか思い出せなくて、辛かったとか悲しかったとかいう感情は一切思い出せない。
本当に遊ぶのが好きなんだな~って自分のことながら感心してしまった。
と、そのとき突然自分と目が合った!?
「こんにちは、未来の自分♪ ようこそ一九九一年の小二の頃へ」
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