第23話

「ほら、もう外だよ」


 トンネルの出口が見え、それまで重い足取りで歩いていた蒼が、急に駆けだした。外から差し込む光の大きな輪の中に、勢いのまま飛び込んで行く。


「待て、急ぐな」


 妙な違和感を感じ、武史は後を追いかけ、トンネルを出る直前で蒼の手を取った。ゆっくりとした口調で話しかける。


「他にも敵がいるかもしれない」


 振り向いた蒼は、大きく目を見開いて肩を強ばらせた。上がる息を無理矢理止める。


 トンネルの外は鬱蒼と木々が密生している。線路を挟んで左側が山頂、右側は麓に降りる斜面だった。麓の方を少し行けば高台になっていて、辺りを見渡せるはずだ。武史は光球を飛ばして、様子を確認する。


 遠く海岸線まで緑の丘陵が続いているが、周辺の森が燃えていた。海側から風が吹き、火はこちら側に迫ってくる。明らかに武史たちを狙ったものだろう。


「麓の森が燃えている」

「えっ!」

「川瀬、ここから山頂に向かうと、民家が一軒あるはずだ。もう火事に気が付いて逃げ出してるかもしれないが、そこまで走れ」

「走れって、鳴海さんは?」

「敵を倒す。いいか、ゆっくり200数えたら、ここを出て走れよ」


 蒼が不安そうな表情を浮かべたが、話をして事態が良くなる訳でもない。一言「大丈夫だ」と微笑んで見せる。状況はしっかりと理解しているのだろう、蒼も弱々しいが微笑みを返してきた。


***


 トンネルの外へ飛び出しながら、背中に翼を生やす。2本の翼は捻れ、尖ったまま服を突き破ると、一気に広がり、風を起こした。垂直に飛び上がり、高く伸びた枝葉を越え、夕暮れの空に抜ける。


 もうだいぶ薄暗い、日没まであと30分くらいだろうか。茜色の光が燃え上がる木々を、いっそう赤く照らしている。火事の範囲はそれほど広くない。敵は近くにいるはずだ。どこだ? 足下から夕陽が沈む地平線まで見渡すが、それらしき影は見あたらない。翼を羽ばたかせ高度を上げると、漂っていた幾つかの光球が、反射して輝いた。


 殺気を感じ、振り返った時にはもう遅かった。回転と逆方向の衝撃。光線に右肩を打ち抜かれた。仰け反りながら敵を探す。木のてっぺんに立ち、両腕を前に構えたシータの姿。シータの翼が大きく扇いだ。


 何発も続けて打ってくる。腹も打ち抜かれ、翼には瞬時に幾つもの穴が空いた。バランスを崩しながら、足を蹴り上げ体勢をひっくり返す。頭上に燃える木々、足下には薄明の空。武史は落下の勢いをつけて、一気に滑空した。


 シータとの距離が縮まるが、動く気配はなく、こちらをじっと狙い定めている。


「タウの仇だよな。当然だ。そうかここまでか」


 シータから放たれた光線が拡散し、武史を打ち抜いた。

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