第22話
見知らぬ空。赤い大地。まとわりつく風の音。砂の匂い。地球とは別の星での戦いの記憶。地球に来ても戦いは終わらない。無数の記憶が洪水のように蒼を襲った。早回しの映画でも見ているような感覚もするし、実際、星の空気に触れたような現実的な感覚もある。
出来事が過去の思い出になるように、次第に記憶が薄れていくと、今度は無重力の中で、背中からゆっくり落ちていた。背中の向こうは、全てを飲み込むような闇だ。
どこまで落ちれば、何かに触れることができるのだろう。身体を支えることができるのだろう。手も足も、身体全体が重さを失い、自分の存在が疑わしくなるような心細さを感じる。このまま自分は消えてしまうのだろうか。
暗闇の中で何か聞こえた。何の音? 意味を持った言葉だろうか。曖昧だった音に輪郭が現れる。自分を呼ぶ声だ。誰かが自分を呼んでいる。独りじゃなかったんだ。涙が溢れ、蒼は瞼を開けた。
「誰? 鳴海さん?」
小さな光が鳴海武史の顔を照らした。武史もまた、目を潤ませていた。
「大丈夫なのか、痛みは?」
そうか、自分は怪物に背中を切られたのだ。鳴海亮介と名乗った、武史の弟に。そして亮介は、武史の故郷の星ではラムダという名前だった。
「痛みは、ない。でも、頭がぼんやりとしてる」
酷く埃っぽい暗闇。武史の左手にある小さなペンライトが、蒼と武史と、少しアーチがかった天井を照らしている。地面に敷かれた小石が冷たかった。
「すまない」
急に謝罪する武史を見て、言葉に詰まった。愛想笑いも出来ないほど、顔が強ばっていたが、何とか声を絞り出す。
「ここはどこですか?」
「俺の家の近くにある、廃線になったトンネルの中だ」
背中を切られた時から、なぞるように武史の記憶を手繰る。背負われてトンネルの中に逃げ込んだと思ったら、武史が予め仕掛けていた爆弾を爆発させ、ラムダを生き埋めにした。
「鳴海さんの記憶の一部が、私の記憶の中にも入っているみたい」
左手を背中に回し、傷口を探すが何処にもない。あーあ、お気に入りのフリルスリーブカットソーが台無し。ブラもお腹のあたりまでズレている。蒼は思わず両腕を組んで胸を隠した。カットソーに染みた血が左手に付いて、赤くなっている。
「とにかく、ここを出よう」
と言う武史の言葉に、蒼は黙って頷いた。
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