第21話

 蒼の状態は急速に悪化しているようだった。傷口は浅いとはいえ広範囲に切られ、大量の血を失っている。せめて傷口を防ぐことができれば。光球で皮膚を焼くことも考えたが、熱が強すぎる。止血の代わりに背中全体に熱傷を負うことになるだろう。


 自分の傷なら修復することができる。光球を多く蓄えていれば、腕や足が無くなったとしても新たに生やすことが出来た。けれど地球人を治すのは無理だ。細胞が光球の振動に共鳴しない。


 ふと、白い石を飲ませてみてはどうかと思いついた。体内で光球を石から解放してやり、細胞という細胞を振動で満たしてやる。それから光球を蒼の細胞に合わせて変化させてやるのだ。血液を造り、傷口を塞ぐ。いけるかもしれない。だが確証はないし、逆に蒼の命を奪う可能性も十分にある。


 背中越しに伝わってくる蒼の心臓の鼓動、呼吸は一段と弱々しくなり、もう猶予がないと感じた。


 武史は立ち止まり、蒼を壁に寄りかからせる。ペンライトを顔に当てた。髪は乱れ、濡れた額から汗が頬を伝った。声をかけても返事はないが、何度も名前を呼ばずにはいられなかった。


「川瀬、俺の声が分かるか」


 ツナギの胸ポケットから、半分になった白い石を取り出し、無理矢理飲み込ませる。蒼の顔が歪む。激しい痙攣。頭、肩が揺れ、胸が大きく上下に弾んだ。震えを抑えようと蒼を抱きしめる。


 無関係な壁を照らしたペンライトの光が、不意に強くなったように感じる。見ると、蒼の肌が白く輝き、全身から光が放っている。光が強くなり、あまりの眩しさに、武史は目を閉じた。

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